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老若男女を笑顔にする爽やかなマドレーヌ
最近、新しいベーカリーをプロデュースする関係で鹿児島県への出張が増えているが、そのたびに僕は必ずといっていいほど鹿屋市まで足をのばす。
鹿屋市は大隅半島の真ん中にあり、温暖な気候で農産物に恵まれた街だ。お目当ては「菓子工房ボンヴィヴォン」。オーナーシェフの吉国奈緒美さんは、2011年に惜しまれつつ閉店した東京の老舗洋菓子店「エス・ワイル」を経て、スイス、フランスで修行した経歴の持ち主だ。地元大隅産の材料を積極的に使いつつ本場のエスプリを利かせた生ケーキや焼き菓子は、どれもてらいのない正統派の味わい。なかでも、仕事関係から実家の両親まであらゆる方面への手土産としていつも重宝しているのが、「霧島こみかんぬ」である。
一度聞いたら忘れられない可愛いネーミングのもとになっている「小みかん」は、鹿児島県の特産品としても知られる柑橘類。普通のみかんに比べると、直径約4cm・重さ40〜50gととても小さく、豊かな香りと濃厚な甘味が特徴だ。かつては薩摩藩の殿様に献上されていたとも伝えられる歴史の深い品種でもある。
「そんな小みかんを美味しいお菓子に」と考えた吉国さんが試行錯誤の末に作り上げた力作が、この霧島こみかんぬ。鹿児島県霧島産の小みかんのシロップ漬けを使い、香り高いマドレーヌに仕上げてある。ふんわりと甘いキャラメル風味の生地がベースだが、シロップ漬けを口にすると、鼻に抜ける柑橘香とともにかすかな苦みも感じられる。まるで大人の女性に憧れる少女がちょっぴり背伸びしているかのような瑞々しさを感じさせる味わい。ひとつひとつが小振りでぱくっと食べられてしまうところにも、小みかんらしさが現れているようで、実に可愛らしい。
爽やかな甘さをより楽しむには、ダージリンティーと一緒にいただくのがおすすめ。普段はコーヒー党の僕も、このときばかりは丁寧にダージリンを淹れる。若手のスタッフのなかには、日本茶に合うとすすめる者も。豊かなお茶文化を持つ日本人向けのフランス菓子といえるのかもしれない。
※掲載情報は 2015/12/12 時点のものとなります。
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キュレーター情報
ベーカリープロデューサー
岸本拓也
「美味しさの先に楽しさがある」をモットーに、日本全国からオセアニアまで至るところでベーカリーの開業支援やコンサルティングを手がけるベーカリープロデューサー。 横浜べイシェラトンホテルにて、広報PR・ブランディング・レストランカフェ・ホテルベーカリーショップのマーケティング及び企画業務に携わったのち、横浜・大倉山にてベーカリー「TOTSZEN BAKER'S KITCHEN」を開業。現在までオーナーを務める。2011年より、震災地におけるベーカリープロデュースやホテルベーカリーの新業態開発、既存ベーカリーの売上改善、販売コンサルティングをスタート。最近ではイタリアンシェフ・アルケッチァーノ奥田政行氏によるベーカリー「地ぱんgood」や、キッザニアを運営する「KCJ GROUP」によるベーカリー「TORETATE」をプロデュース。活動の幅は国外にも広がり、2015年末には中国でもベーカリープロデュースを予定している。