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本当の意味での「ガストロノミー」
まずは、温かみのあるこちらのテーブルシートを確認して、各々ゲストが着席をしていきます。
各テーブルには、ネームプレートと、本日のメニューが記されたカードがさり気なく配置されています。メニューカードの左には「6 August 2015」の記載があり、本日用に作られたメニューだとわかり、これから始まるディナーに心が高まります。
ゲスト全員が着席した後、駐日コロンビア全権公使アレハンドロ・ポサダ・バエナさんが改めて、本日のゲスト全員に感謝の言葉を述べた後、簡単にコロンビアについて地図を使いながら、わかり易く教えてくださいました。
コロンビアは日本との修好が始まり、実に100年以上が経ちます。コロンビアは南米大陸の北に位置しており、首都は「ボゴタ」、公用語がスペイン語で、国土の広さは日本の約3倍もあるそうです。パナマ、ベネズエラ、エクアドル、ペルーが隣国となり、太平洋、カリブ海に囲まれています。国内にはアンデス山脈が走り、アマゾン流域もあるため、日本のような四季はありませんが、地域ごとで様々な気候を持っている事が大きな特徴で、世界にもまれに見るほど生物多様性に富んだ国と言えるそうです。
この後、アレハンドロ・ポサダ・バエナさんから、今回の主役とも言える2名のシェフをご紹介頂きました(写真左:エドゥアルド・マルティネスさん 同右:アントヌエラ・アリサさん)。首都ボコタで「Mini-Mal restaurant」というレストランを経営しているシェフでもあり、今回のディナーを始め、前日のランチ、ディナーでも腕を振るって頂きました。お二人からもご挨拶と、コロンビアの紹介を頂きました。
彼らから見ても、コロンビアは世界でも有数な生物多様性がある国と言えるそうです。文化も同様に多様性に富んでおり、国内には84もの民族が存在し、それぞれ独自の言語で生活を行っています。コロンビアはヨーロッパのみならず、アフリカやアラブ地域の味、調理法も過去の歴史から伝わってきていて、料理以外でも音楽も同様のことが言えて多様な文化を形成しているそうです。今回のディナーではこの多様性を存分に味わってもらうためのメニュー構成になっているという話を聞き、ゲストは色めき立ちました。
そして、アレハンドロ・ポサダ・バエナさんの乾杯と共にディナースタートです。
ビーチェとヤシの実のカクテル
食前酒として出されたカクテル。ビーチェとはさとうきびの蒸留酒で、コロンビアでは大衆的に飲まれているものだそうです。柑橘とミントの香りが非常に軽やかで飲みやすく、ゲストに非常に評価が高かったドリンクです。
根菜とひき肉のコロッケ
前菜はシンプルなコロッケ料理。アラカッチャという根菜と中のお肉は「オガオ」というコロンビアの典型的なトマトと長ネギのソースで浸されているもので、ソースを使わず、そのままでも酸味を少し感じる味わいがあるので、食べてしまう事もできます。添えてあるソースはパイナップルとチャヨーテという野菜と唐辛子を混ぜたソース。このソースを付けて頂くと爽やかな香りが鼻を抜けていきます。
このアラカッチャとチャヨーテは昔ながらの地方の素材という事で、都会ではあまり重要視されてはいなかったそうですが、シェフ2名は14年前からレストラン経営をする際にこういった日の目を見る事がない素材を取り入れるように努めてきたそうです。
魚介類のグリーンカレー・ココナッツボール添え
こちらは、太平洋側の特にアフリカ文化の影響を受けている地域で良く食されている料理。バジルの葉が敷かれていて、その上にはココの実と砂糖を合わせたペースト状のものが載っています。その上の海老は、グリーンカレーとココナッツ、柑橘系のソースで和えられています。シーフードに合わせられたこのソースの中には「ココアス」というカカオの実が入っていてほのかな酸味を演出します。シェフのお勧めで、細かくせずに、一口で頂きましたが、バジルの香りとココナッツの甘み、グリーンカレーの軽い辛味、実に多くの味わいを一口で味わえる素晴らしい一皿は、ゲストの驚きを誘っていました。
この地域の料理を作る女性はハーブを良く使う方が多く、大胆に料理にハーブを取り入れるのが特徴で、今回もそれをイメージしているとのことです。そして、一言に「バジル」と言ってもこの地域には、実に13種類ものバジルがあるそうです。
米とエビ、燻製ソーセージ入りタマル
バナナの葉に包まれたこちらの料理が今回のメイン。やさしい味わいを持ちながら複雑な味が口の中で広がる印象に残る料理でした。お米を使った典型的な料理で、太平洋地域の田舎で良く食べられるものだそうで、そのイメージをしっかりと保ちながら作られています。この地域では基本的に食料は自給自足が基本なので、お米はもちろん、こちらに入っているソーセージ等も各家庭で作り、炭火で燻製にするそうです。この料理には、ココナッツミルクも加えてあり、オレガノ、ミント、コリアンダーの3種類のハーブも加えられています。
材料一つ一つは素朴ですが、組み合わせる事によって複雑な料理になる。これはアフリカの料理文化を引き継ぐエリアならではのものだそうです。お米はアチョーテという天然の染料を使って色づきさせています。
そして一同の驚きを誘ったのが、メイン料理に添えてあった赤い食べ物。実はファンタで色付けをしたバナナ。この地域は天然の染料を使って料理に色付けをする事が伝統的にあるようで、それに倣いバナナをファンタで色付けをしたとのこと。目に飛び込む色ですが、食べるとしっかりバナナの味で、日本で通常食べるバナナよりも粘土があり、果物というよりもジャガイモ等の穀物に近い印象を受けました。実際に使用したファンタもお目見えし、ゲスト全員がファンタを手渡していき、写真を撮ったりなどして、会話に花を咲かせました。
サプライズ
大きい白いお皿に並んでいるのは、そう「蟻」です。メイン料理の後にゲストの前にお目見えしたのは大きなサプライズでした。一般的にコロンビアでも食べられるわけではないですが、南部のアマゾン流域では食する機会が多いそうです。昨年の「世界ベスト・レストラン100」で見事首位の栄冠を勝ち取り、今年1月に期間限定で東京のマンダリンホテルでオープンをし話題となった、デンマークの「NOMA」も蟻を料理に取り入れていました。食用の蟻は、地域によっては貴重なタンパク源としても重宝されていて、今回提供された蟻は少し大きめの蟻で、味わいとしてはナッツをほうふつとさせる香ばしい味わい。飲み込むのではなく、かみ締めて味わうというのが流儀だそうで、ゲストは一様にお皿を回し、未知の味を確かめていました。
あくまでサプライズという形式の提供でしたが、ゲストには相当なインパクトがあったみたいで、驚きの声とともに撮影タイムに。それを見守るアレハンドロ・ポサダ・バエナさんの優しい笑顔が印象的でした。
アグアルディエンテ入りコーヒーケーキ
最後はこちらのスイーツ。コーヒーに「アグアルディエンテ」という蒸留酒を混ぜ込んだものにケーキが浸しているため、名前は「酔っ払い」と言われているそうです。元々は古くなったパンを捨てないように、再利用するために作られたスイーツと言われているそうです。ケーキの上に可愛らしく並んでいるのは、コーヒーと「アレキペ」という中南米では一般的なキャラメルソース。手がデザインされたものは70%のカカオで作られたもので、「ゲストの皆様に手を差し伸べ、お友達になりましょう、これからもよろしくお願いします」という暖かいメッセージがこめられたものでした。味わいは非常に素朴で優しい味わいで、アレハンドロ・ポサダ・バエナさんは、このスイーツを食べると故郷が恋しくなるそうです。
コロンビアコーヒー/紅茶/コロンビア産チョコレート
そして、その後はウェルカムドリンクを頂いたリビングに移動して、コロンビアコーヒーとコロンビアの「お茶」をコロンビアカカオ70%のチョコレートと一緒に頂きました。コロンビアはコーヒーのイメージが強いですが、提供された「お茶」の評判も高く、色味は薄いですが、マイルドで甘みも感じます。このお茶は首都ボコタ近郊で採取されるため、「ボコタティー」とも呼ばれています。
最後、お茶をしながら改めて全権公使アレハンドロ・ポサダ・バエナさんとシェフの2名から、ゲストへの御礼を頂き、記念写真をそれぞれ撮り、会は無事に終焉を迎えました。
イベントを終えて
前回のコロンビアコーヒーとのフードペアリングイベントでも感じましたが、今回も非常にゆったりとした雰囲気で包まれながら会が進行していったのが印象的でした。ゲストの質問にも全権公使、シェフともに丁寧に答えていただいたのはもちろん、食材に関しても全権公使みずからが資料を持ち、ゲストへ細かい説明も非常に気配りが、この雰囲気を創り出したのだと思います。
「ガストロノミー」とは「美食学」とも訳され、様々なシーンで目にする言葉ですが、ただ単純に、食べて美味しいという体験はそれに該当しません。今回シェフからの料理、食材、そしてその料理の文化を含めた背景に対する説明があり、非常に質の高い、本当の意味での「ガストロノミー」をしっかり体験できたということは、ゲストが帰り際に見せた笑顔が物語っていました。
プレゼント
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