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栗菓子処 中松屋
龍泉洞爽菓 水まんじゅう 7個入り
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インド人の言う「涼しい」は、「幸せ」という意味を兼ねると聞いた。日本でも体温級(またはそれ以上)の酷暑が続けば、涼しいというほどに幸せを感じさせる言葉はない。東京より平均気温が高い都市はいくらでもあるが、気温と湿度をかけあわせた「不快指数」となれば、ロサンジェルスやカイロを遙かに凌ぎ、バンコクなどと並ぶ世界最高水準にある。
こう暑いとグルメどころではないが、逆に「涼味」を与えてくれるものであれば、もう無条件に美味しいと思いかねない。結果として日本では「涼味」を持ち味とする食文化が花開いた。寿司や刺身、あるいはもずく酢、そうめん、冷ややっこ……。冷たい蕎麦やうどん、冷やし中華は季節を問わずこの国に定着している。
夏の冷たい甘味といえば、かき氷や水ようかん、あんみつなどが思い浮かぶが、思いのほかバリエーションに乏しい感もある。しかしわが国で最高レベルの寒暖差を誇る(?)岩手県には、さすがの「涼しい」甘味が存在した。その名は「水まんじゅう」。
もちろん、水まんじゅうは岩手県の専売特許というわけではなく、岐阜大垣や奈良県御所市のものがむしろ本家として知られている。岩手県「中松屋」の水まんじゅうが図抜けているのは、キンキンに冷やした名水で味わうという点。
「中松屋」の水まんじゅうをネット通販で購入すると、クール宅急便で岩手の名水「龍泉洞」のペットボトルを同梱して送ってくれる。名水はガチガチに凍らせてあって、これを少しずつ溶かしてガラスの器に注ぎ、氷を三つ、四つ入れ、そうして水まんじゅうを浮かべる。
まんじゅうの生地は葛で、透き通った見た目といい、つるりとして冷たい舌触りといい、涼味満点。冷やしたスプーンで水まんじゅうを割ってみると、中には栗あんがしのばせてある。半分にした水まんじゅうを龍泉洞の名水ごと、スプーンですくって口に運ぶ。もう、口に入る間際から、「ああ、美味しい」と声を上げてしまっている自分に気がつく。あらためて味わってみれば、栗あんの素朴で自然な味わい、名水の仄かな甘味が、しみじみと心を打つ。
言ってみれば“酷暑における甘味の王様”。酷暑だからこそ味わえる愉悦である。音楽でいえばビーチボーイズ。そのバンド名をタイトルに冠したアルバム「BEACH BOYS」が1985年にリリースされているが、あまり知られていないように思う(そもそも、まったく売れなかった)。しかしセルフタイトル盤だけあって、いま聞いてもそのクオリティはなかなかのものと感じ入る。頭がくらくらしそうな夏の陽や、そこへ涼味を運ぶ一陣の潮風が、実にリアルに描き出されている。
クーラーをガンガン効いた部屋で、たとえば“She believes Love again”に耳を傾ける。酷暑も悪くないかな……と思う。
※掲載情報は 2015/08/05 時点のものとなります。
エッセイスト 文教大学 准教授
横川潤
飲食チェーンを営む家に生まれ(正確には当時、乾物屋でしたが)、業界の表と裏を見て育ちました。バブル期の6年はおもにNYで暮らし、あらためて飲食の面白さに目覚めました。1994年に帰国して以来、いわゆるグルメ評論を続けてきましたが、平知盛(「見るべきほどのものは見つ)にならっていえば、食べるべきほどのものは食べたかなあ…とも思うこの頃です。今は文教大学国際学部国際観光学科で、食と観光、マーケティングを教えています。学生目線で企業とコラボ商品を開発したりして、けっこう面白いです。どうしても「食」は仕事になってしまうので、「趣味」はアナログレコード鑑賞です。いちおう主著は 「レストランで覗いた ニューヨーク万華鏡(柴田書店)」「美味しくって、ブラボーッ!(新潮社)」「アメリカかぶれの日本コンビニグルメ論(講談社)」「東京イタリアン誘惑50店(講談社)」「〈錯覚〉の外食産業(商業社)」「神話と象徴のマーケティングーー顕示的商品としてのレコード(創成社)」あたりです。ぴあの「東京最高のレストラン」という座談会スタイルのガイド本は、創刊から関わって今年で15年目を迎えます。こちらもどうぞよろしく。