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有名レストランが指名する、完熟させて収穫する「樹熟トマト」
今回ご紹介するのは、山形県庄内地方にある井上農場のトマトです。代表の井上馨さんを中心に家族経営で農業を営む井上農場は、「家族に食べさせたいものだけを作る」がモットー。だから、良質な有機肥料を使い、無農薬や低農薬で安心安全な作物をいろいろと育てています。トマトは高温多湿を嫌う性質なため、旬は春だといわれていますが、北の庄内で作られる井上さんのトマトは夏が旬。今が出盛りで一番おいしい時期です。
土壌改良の研究を重ね、水はギリギリまでやらずに有機肥料やハチミツを与えて作られる井上さんのトマト。水を極限までやらないので、トマトは必死に根を伸ばし地中のミネラルを貪欲に吸収していきます。一般的に流通に乗るトマトは熟す前に収穫しますが、井上さんはトマトが枝についた状態で熟すのを待ち、完全に熟した状態で収穫するという栽培方法を長年つづけています。「樹熟トマト」と名付けられたこのトマトは、強い甘みの中にしっかりとした酸味もあり、そのバランスが抜群。最後までしっかりと土の栄養分をその実に凝縮しているので、実に濃厚な味で、みっちりと詰まった実の食感も最高です。ただただ甘いだけのトマトとは全然違うトマト本来の旨さは、そのままでももちろん、いろいろな料理にも活躍します。
井上さんのトマトでパスタを作る際に、余分なものは一切必要ありません。オリーブオイルにニンニクのみじん切りを入れて香りがでてきたら、皮を剥いて切ったトマトを入れて少し煮込むだけ。塩で味を調整してパスタに絡めたら、天下一品のパスタ・ポモドーロの完成です。トマトが完璧なので、甘みや酸味を加える必要がまったくないんですね。熟しているので、少し煮込めば適度に煮くずれるのもいい感じです。トマトの旨味成分は、昆布と同じグルタミン酸。だから、あらゆる料理のコクや旨味を深めるためにも使える野菜というわけです。抗酸化作用があるリコピンやβ-カロチンもたっぷりなトマトですが、こうした旨味や有効成分は「樹熟トマト」のように畑で完熟したもののほうが優れています。
研究熱心で妥協を許さない井上さんは、多種多用なトマトを栽培しています。大玉の“王様トマト麗夏”、中玉の“レッドオーレ”、細長い“シシリアンルージュ”、ミニトマトの“ピンキー”や“ラブリー藍”などなど。単品でも注文できますが、予算や量を伝えておまかせでいろいろと選んでもらうのも楽しいもの。箱をあけた時のトマトの輝きは、本当に宝石のようです。フレッシュトマト以外にも、樹熟トマトでドライトマトやトマトジャムなども作っているので、そちらもおすすめです。
最上川や赤川がもたらした肥沃な土地に月山の豊富な雪解け水が染み渡る庄内平野は、日本でも有数の肥沃な土地。井上さん一家はここで、トマト以外にもお米や野菜を作っています。特にお米は数々の賞に輝く絶品ですが、そのご紹介はまた後ほど新米の時期に。
※掲載情報は 2015/07/30 時点のものとなります。
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キュレーター情報
フードジャーナリスト
斎藤理子
雑誌編集者を経てロンドンに6年半、ワシントンD.Cに5年半在住。その間、世界各国を食べ歩く。現在は国内外の生産者からシェフまで幅広く取材し、雑誌を中心に執筆。著書に「イギリスを食べつくす」(主婦の友社)、「隣人たちのブリティッシュスタイル」(NHK出版)など。編著に『アル・ケッチァーノ』奥田政行シェフの連載をまとめた「田舎のリストランテ頑張る」(マガジンハウス)、「コッツゥオルズ」(ダイヤモンド社)。2011年英国政府観光庁メディアアワード受賞。