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ニューヨークスタイルが生み出した新たな「テロワール」
前回#1では「テロワール」を巡って南仏を冒険してみた。テロワールは広義にしても狭義にしても、基本的には「ぶどうが収穫される場所」で起こる出来事。しかし、最近では、さらに広義の解釈も生まれているようで……とあまり難しいことを書くつもりもないので、早速、今回の冒険へと出かけよう。
場所は、ニューヨークでもここ数年、注目が集まるブルックリン。中でも新しいブルックリンを決定付けたエリア、ウィリアムズバーグへ。
さて、ニューヨークでワインといえば、おそらく「一大消費地」としてイメージされるでしょうけれど、実は、全米3番目の生産量を誇る、「一大生産地」。五大湖近くのフィンガー・レイクス、そしてマンハッタンやブルックリンにも程近いロングアイランドが主な産地。モダンなワイン造りの考え方と、クリエイティブな発想を持って、NY州のテロワールを生かした、ワインメイカーが続々と生まれ、NYの街とライフスタイルに新しい刺激を与えています。
中でもユニークなのが、『ブルックリン ワイナリー』。「都市型ワイナリー」、「地産地消ワイン」のアイコン的存在。インターネットのスタートアップ企業で同僚だったブライアン・レベンソーとジョン・スティアーズの2人によって2010年に設立。ブドウ栽培はおこなわず、主にフィンガー・レイクスやロングアイランドから彼らの感性でブドウをセレクトし、ブルックリンで醸造を行っています。ワインはそのまま併設のワインバー、ダイニングで楽しめますが、この場所もクリエイターなど、感性豊かな層が集まり、すっかりブルックリンの新名所になっています。
昨年に続いて、2015年7月再訪。ここからはちょっと軽快に旅日記風に。
オープン時間にドアを開ける。窓から差す西日さえアーティスティックに感じる夕方5時。カウンターの奥に腰掛ける。心地よいリズムとトークとアクション、そして素敵な笑顔でワインをナビゲートするのは、ソムリエというよりもワイン・ミュージシャンとでもいうべきマット君。彼のおススメと、今日の気分で、まずはブルックリン・ワイナリーの6種のワインが楽しめるフライト(つまりは利き酒セット)をオーダー。オールドヴァインジンファンデルのロゼが出色。さらに名前もユニークなケセラ・シラーなる、シラー品種を使った3種のフライトを、ケール・サラダとモダンなアレンジのフムス(地中海沿岸地方のヒヨコマメのペースト)と共に。ニューヨークでのメシってやはり高い訳だけれど、こちらのフライトのお得感もありで実に楽しい。ふらりと入って1杯だけ飲んで、1本買って帰るお客さんから、なにやらここに出入りする人たちショートストーリーを紡いだらどんなに楽しいだろう、なんて錯覚も。マットと地元のお客さんの会話とワインの飲み方、勧め方をみているだけで、軽やかなロックライブにいるような心地よさ。
そんなタイミングでこのワイナリーを企んだ、ブライアンが偶然にもカウンターに。ちょっとおしゃべり。昨年の来訪を覚えていてくれたブライアンに感謝しつつもう1杯……。マットが指を鳴らしながら、それならこれだね!と気持ちよい勢いで注いだのは、新たなトレンドになりつつあるオレンジ……かとおもいきや、ロングアイランドはノースフォークのブレンド。粗野な男の強さと紳士のエレガント……を夢見る30代。そんなテイストが、マット、ブライアン、そして僕。今ここにいる男たちにぴったりあっている気がした。
ブライアンたちの取り組みはやはり冒険だったのだろうけれど(前年のインタビューでもいろいろ苦労話はしてくれた)、おかげで僕らは心地よいワインの冒険を楽しめる。ニューヨークのワインバーは日本では味わえない面白さがあって、常識を引っ剥がされる軽い痛みもあったりするけれど、どうにもたまらない魅力がある。そこで楽しまれているのが地元ニューヨーク州ワイン。昨年からニューヨークで作られるワインと、ニューヨークでのワインの楽しまれ方について、どうにも目が離せなくなっている。機会があれば、もうひとつのブルックリンの都市型ワイナリー「レッドフック」についても紹介したいが、まずはこのブルックリン・ワイナリーのスタイルを楽しめるワインが、日本でも購入できるということをご案内しておこう。東京をはじめ日本でもブルックリンスタイルのお店が増えてきたけれど、ワインを通して、ワインの楽しみ方を通してより今のブルックリン・スピリッツ……。あ、醸造酒か(とそんな面倒なぼけはいらない)を感じていただければ、な、と。
※掲載情報は 2015/07/26 時点のものとなります。
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キュレーター情報
ワインナビゲーター
岩瀬大二
MC/ライター/コンサルタントなど様々な視点・役割から、ワイン、シャンパーニュ、ハードリカーなどの魅力を伝え、広げる「ワインナビゲーター」。ワインに限らず、日本酒、焼酎、ビールなども含めた「お酒をめぐるストーリーづくり」「お酒を楽しむ場づくり」が得意分野。
フランス・シャンパーニュ騎士団 オフィシエ。
シャンパーニュ専門WEBマガジン『シュワリスタ・ラウンジ』編集長。
日本ワイン専門WEBマガジン「vinetree MAGAZINE」企画・執筆
(https://magazine.vinetree.jp/)ワイン専門誌「WINE WHAT!?」特集企画・ワインセレクト・執筆。
飲食店向けワインセレクト、コンサルティング、個人向けワイン・セレクトサービス。
ワイン学校『アカデミー・デュ・ヴァン』講師。
プライベートサロン『Verde(ヴェルデ)』でのユニークなワイン会運営。
anan×本格焼酎・泡盛NIGHT/シュワリスタ・ラウンジ読者交流パーティなど各種ワインイベント/ /豊洲パエリア/フィエスタ・デ・エスパーニャなどお酒と笑顔をつなげるイベントの企画・MC実績多数。