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フラワーデザイナー
花千代
フラワーデザイナーとして「Hanachiyo Flower Design Studio」を主宰する一方で、テーブルコーディネートや空間デザイン、食というものをトータルで提案している花千代さん。ご主人であるアーネスト・シンガー氏とともに美食クラブ「ザ・ベストテーブル」の企画・運営や、本物の和食を世界に発信するための取り組みにも積極的に携わっています。そんな花千代さんの貴重な体験談や、日頃大切にしていることについて、お話をうかがいました。
2008年、洞爺湖サミットの晩餐会のフラワーアレンジを手がけ話題に
Q:フラワーデザイナーとは、具体的にどのようなお仕事ですか?
花千代さん:その場にふさわしいお花を選んでディスプレイする、イベントやパーティ会場のほか、CMや映画といった映像の背景で使うお花の依頼もあります。それと同時に企業様のセミナーでの講師や、定期的なワークショップも開催しています。一方で、花の専門雑誌などでの連載も持っておりますので、そのための執筆活動も行っています。来年初めてテーブルコーディネートとお花をテーマにした本を出版することになったので、準備を進めています。現在はお花関係の仕事は全体の約6割くらいですね。
Q:花千代さんは2008年に北海道で開催された洞爺湖G8サミットにおいて、会場となった「ザ・ウィンザーホテル洞爺」での公式晩餐会のフラワーアレンジも担当されていますが、その時のエピソードを教えていただけますか?
花千代さん; 3日間の日程のうち1度だけ、各国首脳とその婦人たちが集う晩餐会があり、そのテーブルフラワーを担当させていただきました。当時、私は同ホテルのフラワーアドバイザーだった縁で、この晩餐会の他にも各国首脳が宿泊される各スイートルームなど、主に室内のお花をコーディネートしました。国家的なプロジェクトとして総合プロデューサーにはデザイナーの山本寛斎氏が就任し、当時の福田総理からは「最大限の和のおもてなしを」というオーダーがありました。晩餐会の会場は日本料理の「嵐山 吉兆」です。畳の上に長いテーブルが配置されたお部屋で、私は花器も含めたトータルデザインを任されました。青竹で作った花器を用意して、その空間にマッチする和のテイストのアレンジに仕上げました。
各国首脳が宿泊するスイートルームに飾るお花は、外務省を経由して事前にお好みをリサーチしました。例えば、イタリアのベルルスコーニ首相(当時)は香りのあるお花が一切苦手、ドイツのメルケル首相は、マーガレットや野草のような小花が好きだとおっしゃるんですね。そういったリクエストに最大限お応えしつつ、和のテイストに仕上げることが求められました。印象的だったのは、各国の首脳からは政治的なこととは直接関係のないお花のことについての質問にも、好き嫌いや色の好みがぱっと出てくるんですね。海外の首脳たちは政治的の分野に限らず、いついかなる時も、生活を彩る花の一本から食べ物の趣味、洋服の趣味に至るまで、あらゆることに関して自分のテイストというものを持っている。それを垣間見た気がしました。
日本が誇る「食」の本物の魅力を伝えるために
Q:お花以外のお仕事では、どのようなことをされていますか?
花千代さん:4年ほど前にスタートした会員制美食クラブ「ザ・ベストテーブル」を主催しています。これはワインと美食に興味のある人たちを対象に会員を募り、いろんなレストランでワインとそれに合わせた特別なお料理を楽しんでいただくというものです。会員のみなさんは弁護士やお医者さま、企業のオーナーをされている方が中心ですが、最近では30代の女性経営者の方が増えているのが特徴です。参加人数は毎回8〜10名が平均で、時にはレストランを貸し切って、大規模なものだと60名を超えることもあります。日頃レストランへ足を運ぶ時って、おまかせのコース料理にワインは飲めてもせいぜい2〜3種類だと思うんですね。でも60名なら、たとえばシャンパンだけでも3種類、白・赤それぞれ3種類、全部で12種類のワインというようにバラエティをグラスで楽しむことができるんです。そのようなこともあって、食べ物と飲み物、特にワイン好きな方たちに喜ばれています。
Q:これまで実施してきた中で、特に印象に残っているのはどのようなテーマの回ですか?
花千代さん:年に1度くらいの頻度で宿泊ありの回を実施していますが、京都編や冬の金沢編は思い出深いですね。そんな中でも印象に残っているのは、新橋の料亭「金田中」さんで実施した、桜をお座敷で観る会でしょうか。室内に大きな桜の枝を用意して、ドレスコードも着物に。50名くらいのゲストが参加しましたが、女性のほとんどが華やかな着物をお召しになっていて、いつもとは違う趣がありました。桜の枝からは花びらがひらひらと舞い落ちて、それもまた雰囲気があって素敵でしたね。いつも何かしらテーマを用意して、レストランのジャンルに偏りがないように年間スケジュールを考えていますが、毎年必ず実施するのは11月のボージョレー・ヌーボーの会です。毎回100名を超える盛大なイベントになっていて、昨年のドレスコードは「収穫祭、踊る農夫と村娘」。農具を担いで来た人、こぶたのぬいぐるみを抱えた人など、みなさん思い思いのコスプレを楽しんでいらっしゃいました。
Q:和食を世界に広めるための活動にも取り組んでいらっしゃいますが、その経緯や具体的な内容を教えてください。
花千代さん:昨年「和食」が世界無形文化遺産に登録されたことで、日本が世界に自信を持って誇れる文化の一つになりました。外国の人が感じている日本の魅力は?と尋ねると、やはり和食の名前が上がります。「Sushi」は世界で通用する言葉になっていますし、和食はローカロリーでヘルシーというイメージも持たれていますよね。そしてもう一つ忘れてはいけないのがアニメ文化です。パリに住んでいた時に、「ジャパンエキスポ」など年に2回のアニメ系のイベントは毎回非常に盛り上がっていて、ヨーロッパ全土からアニメやコスプレ好きの人たちが集まり、片言の日本語を話している姿を目にしました。和食とアニメはどちらも、日本画世界に誇れるものであり、世界の人々と日本とをつなぐコミュニケーションツールになっていると思います。
その一方で、私の主人は日本でワイン輸入販売のビジネスをしているアメリカ人ですが、長年住んでいる日本への恩返しがしたいということで、8年前に静岡県の朝霧高原に「富士山ワイナリー」を作り、日本特有のぶどう「甲州種」を使った世界に認められるワインを作りに参加しました。そうして完成した甲州種100%のワイン「shizen」は、ヨーロッパへの厳しい輸入基準を満たす日本のワイン第一号として認められ、海外へ出る日本で最初のワインとなりました。「shizen」が海外のレストランでも取り扱われるようになりましたが、現実はたくさんの日本食レストランがありながら、本物を提供しているお店が少ないという現実を、私自身どうにかできないものかと考えるようになりました。
Q:それが飲食店のコンサルタント業へとつながっていったのでしょうか?
花千代さん:そうですね。香港や台湾へ行くと、香港だけでも数百軒の和食レストランがありますが、私たちが見てもきちんとしたレベルの和食を作っているお店が何軒あるだろうかと数えると、それほど多くないのが実情です。握ったお米の上にお魚がのっていればそれがお寿司だと思っている外国の方も多いわけです。でもそのような人たちにも本物を伝えたい。中国の富裕層の方たちが銀座のお寿司屋さんへ食べに来る時代ですから、本物をわかっている方がいる。だからこそ、日本文化としての食あり、ということを海外でもっと広めたいという思いが強くなり、和食を中心とした飲食店のコンサルティング業を数年前に立ち上げました。このお仕事を通じていろいろなシェフとの交流が生まれ、香港のレストランとマカオのホテルのコンサルタントとして、研修やメニュー開発のお手伝いをしています。
語学留学先のパリで、花との運命的な出会いを果たす
Q:花千代さんにとって、人生のターニングポイントはいつ頃でしたか?
花千代さん:フランスで過ごした4年間ですね。当時私は32歳で、何かにチャレンジするにしてもジャンプ力のあった年頃です。それまで海外に滞在した経験といえば、高校二年生の時にサマースクールでアメリカのサンディエゴに1ヶ月間滞在したのが最長でした。当初は語学留学のために1年間、その後、お花に出会いフラワースクールで学ぶなどして3年間、トータル4年間をパリで過ごしました。長く海外で生活するということは、食べ物から着る物に至るまでの生活習慣が変わりますので、非常に影響を受けました。フランス人は異文化に対して寛大です。本当に良いと思うものをリスペクトしてくれる文化度が高い国だと感じた一方で、単一民俗の国である日本と違い、いろんな民族の人たちが住んでいますから、コミュニケーション能力が高くないと生き残っていけないということも感じました。特に、日本には以心伝心という言葉があるように、言わずとも伝わることを美徳とするようなところがあります。でも海外ではそれが通用しません。たとえ拙くても言葉にしないと伝わらないものだ、ということを身を以て学びました。
Q:フランスからの帰国後、フラワーデザイナーとしての活動をする中で、失敗から学んだことや一番嬉しかったことを教えていただけますか?
花千代さん:失敗はたくさんありますが、やはりお花という生きているものを扱う怖さ、難しさを感じる機会がありますね。私は北海道に通っていた時期や、京都など地方でのお仕事も多かった時期に、あるイベントのために東京の市場から花材を送ったところ、ダメになってしまったことがあります。温度管理や湿度管理に気を使っているつもりでも、花の品種によってはベストな状態で送ることができないことがあるんですね。そこで、最近は現地のお花屋さんを味方にして、なるべく現地調達をする方向に変わってきています。
嬉しかったことは、パリから戻って間もない新人だった頃、新しくできるハイエンドユーザー向けのリゾートホテルである「ザ・ウィンザーホテル洞爺」でフラワーディレクターを探していると聞き、縁あって担当させていただくことになりました。オープン当初は2日間に渡って地元北海道だけではなく、東京からもたくさんのゲストが招かれ大々的なオープニングパーティが開催されました。ちょうど5月だったので、北海道らしくスズランを使ったアーチを入り口に設置し、それをくぐってロビーに入っていただく演出や、3m〜4mもの高い花器からしだれるようにお花を活けるなど、パリから帰ってきたばかりの私は、向こうで見てきたことや学んだこと、アイデアのストックを再現しました。すると、それを見たレストランのオーナーが、3ヶ月後にオープン予定のレストランに飾るお花を私に任せたいと、私のフラワーアレンジを見た瞬間に決めてくださいました。その方とは今も長いお付き合いをさせていただいておりますが、あの時はとても嬉しかったです。
Q:花千代さんが日頃大切にしていること、これからしてみたいことを教えてください。
花千代さん:自分がこれからどうしたいか、ということをイマジネーションする力は大切だと思っています。こういうことがしたい、こういう人と出会いたいと、常日頃から具体的に思い描いて口に出すことです。今私は、先ほども申し上げましたがテーブルコーディネートと花をテーマにした初めての本の出版に向けて準備を進めています。これまで連載してきたものに、新しく撮り下ろしたものを合わせて1冊の本にまとめます。過去3冊のエッセイを出版しましたが、今回の本は念願でもあったのでとても楽しみにしています。それと、書くことが大好きなので、いつか小説を書いてみたいですね。1人の女性の波乱万丈な生き様を描くものです。
Q:最後に、ippinキュレーターとして、自宅でのホームパーティを楽しくさせるコツをぜひ教えていただけますか?
花千代さん:それはもう、テーマを決めることです。テーマがあれば、お料理、空間作りなどあれこれ迷うことがなく絞り込みができるので、結果的に準備がとっても楽になりますよ。春なら「桜」とテーマにしてみたり、ママ友と子どもたちのパーティなら7月には「七夕」をテーマにしてみたりもありますよね。ドレスコードを作るとゲスト同士の会話のきっかけにもつながりやすいですよ。美食クラブ「ザ・ベストテーブル」でも、「花一輪」とか「水玉」など、ハードルが高くなりすぎないドレスコードを設けることがあります。テーマやドレスコードがあると、参加者はパーティに参加することそのものが楽しくなるので、特別凝ったお料理は必要ないんです。
プロフィール
フラワーデザイナーとして「Hanachiyo Flower Design Studio」からの発信のみならず、テーブルアート、空間デザイン、料理のワークショップなども含めて、多角的に楽しむライフスタイルの在り方を紹介。主宰する会員制美食クラブ「ザ・ベストテーブル」では毎月様々な工夫を凝らしたテーマで、レストランのシェフたちとコラボレーションしている。エッセイ「若さを卒業すれば女はもっと美しくなる」(阪急コミュニケーションズ)など著書多数。また、SANKEI EXPRESSにて「花千代のビューティフル・フラワーズ」、月刊フローリスト「花千代の花でおもてなし」など連載も多数。3月20日発売の松嶋啓介シェフの最新対談集「バカたれ」では対談相手を務めるなど、シェフの友人も多い。
※掲載情報は 2015/07/09 時点のものとなります。
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