【クローズアップ】日本の食、地域の食をプロデュースする若きリーダー 松田龍太郎

【クローズアップ】日本の食、地域の食をプロデュースする若きリーダー 松田龍太郎

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食業プロデューサー

松田龍太郎

 

株式会社オアゾの代表取締役として常に日本各地を飛び回り、たくさんの人と会って話し、様々な食材や加工品、飲食店のプロデュースに携わる松田さん。最近では「日本パイ倶楽部」の代表理事としての活動にも取り組んでいます。社会人としてのスタートはテレビ局の報道カメラマンだったという松田さんが、いつ頃どのようにして「食」の面白さに目覚め、食業プロデューサーという肩書きを持つに至ったのか、お話をうかがいました。 

すべては「食生活のスタンダード向上」のために

【クローズアップ】日本の食、地域の食をプロデュースする若きリーダー 松田龍太郎

Q:松田さんは現在「食業プロデューサー」として、どのようなことをされていますか?

 

松田さん:食に関するプロデュース全般を行っています。具体的には、商品開発のご提案、新しい飲食店を立ち上げるお手伝い、名物料理・スイーツをプロモートしていくPR業務なども含まれます。そこから派生したプロジェクトもあって、その一例が今年の5月に立ち上げたばかりの「日本パイ倶楽部」です。これは、パイにまつわる文化ならびに情報を発信していくことを目的としたもので、パイに関連するメーカーや団体、パイが好きな個人の方たちと一緒に活動しています。

 

Q:なぜ「パイ」だったのか? 企画が生まれた経緯を教えていただけますか?

 

松田さん:まず、僕は青森県弘前市出身で、弘前はご存知の通り「りんご」の名産地です。お菓子でも「アップルパイ」が非常に多く、僕自身それを食べることが好きだったということがまずひとつ。そして大阪のパイ生地メーカーである、リボン食品株式会社専務の大塚由加子さんとの出会いによって、パイをごはんやパンと並ぶ主食として広めていくことを目指して企画が生まれました。日本国内には「うなぎパイ」「はたはたパイ」など、いろんなご当地パイがある一方、世界中にも昔から「アップルパイ」「ガレット・デ・ロワ」など様々なパイがあります。でも、それらの情報をまとめ発信しているところはありません。日本のパイ文化と世界のパイ文化を融合させて、2020年の東京オリンピックに向けて新しいパイ文化を広めていこうというのが今の目標です。

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Q:具体的な活動内容を教えてください。

 

松田さん:「日本パイ倶楽部」は一般社団法人です。会員には法人会員と個人会員とがあって、それぞれ会費をいただき、会員限定イベントへの招待や、入場のための会員カードの発行、誕生日月にパイをプレゼント、などの特典を用意しています。ここではご当地パイを「ゆるパイ」、パティシエや料理人が作ったパイを「まじパイ」と勝手に呼んでいまして、同倶楽部理事・藤井青銅さん著作の「ゆるパイ図鑑」(扶桑社)も会員特典グッズとしてプレゼントしています。単にパイを買ってもらうためのプロモーションではなく、目指すアクションとしては、法人会員と個人会員のみなさんがリアルでつながる場を提供したい。例えば、バイの歴史が学べる「パイの学校」のようなセミナーやワークショップ、シーズンごとに新作を発表するファッション業界のように「パイ・コレクション」(パリコレならぬパイコレ)として新作のパイを春夏・秋冬の年2回発表するイベントも企画しています。

複数のプロデュース会社で企画運営と食ビジネスを学ぶ

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Q:松田さんはこれまでに、どのようなお仕事をされてきましたか?

 

松田さん:大学卒業後、新卒でNHKに報道カメラマンとして入局しました。撮影取材のために各地へ飛んで、全国各地の宝物と呼べるような人たちと、たくさん出会うことができました。勤務地は渋谷にはじまり、最後は故郷青森の支局へ。その頃私は29歳でしたが、東京の大学に進学していたので約10年ぶりに青森へ帰ったことになります。それまで行ったこともなかった青森の隅々まで取材で足を運ぶようになり「これはすごいな!」と驚きました。自分の地元にさえ、まだまだ知らない情報があるこということは、全国にはどれほどの情報があるのだろうと思いました。

 

さらに、ニュースをとりに行くという立場を経験したことで、どんな商品やお店だったらメディアが取材したいと思うだろうか、というメディア側の目線をもつことの大切さを、生産者や業者の方たちに教えてあげたいと思うようにもなりました。当時はカメラを通して映像で情報を伝えるのが仕事でしたが、別のアプローチで情報を発信し、人(生産者)と人(カスタマー)をつなぐ空間作りへの関心も強くなり、NHKを退職後、小山薫堂さんが代表取締役を務める株式会社オレンジ・アンド・パートナーズに入社することとなりました。

 

Q:オレンジ・アンド・パートナーズではどのような業務を担当されたのですか?

 

松田さん:さまざまなプロデュースを行っている会社で、その中でも私は「食」にまつわる企画を担当させていただくことが多く、食の面白さに興味を持つようになりました。(小山)薫堂さんから企画を考える時に大切なのは「楽しいか?」、「新しいか?」、「誰かを幸せにしているか?」ということを教わりました。今も企画に行き詰まった時にはこの言葉を思い出します。

 

その後、飲食プロデュースを行う株式会社カゲンに入社し、実際にお店に立つところから始まって店舗運営や企画プロデュースを経験しました。飲食業界のビジネススクール「スクーリング・パッド」のレストランビジネスデザイン学部で企画やイベント運営に携わり、2010年に株式会社オアゾを設立しました。当初は女性クリエイターのマネジメントが主体でしたが、食に特化したプロデュースにも着手していきました。

 

Q:当初、女性クリエイターのマネジメントに取り組んだ理由とは?

 

松田さん:世の中には女性をターゲットにした商品がとても多く、女性向け商品のプロデュースを依頼されることも多々あります。つまり、モノづくりには女性ならではのセンスが必要とされているんですね。でも女性は、結婚、出産、育児など、ライフステージの変化によって職業を変えざるをえないなど、その影響を男性以上に受けているのが現状です。特に、会社に属さずフリーランスで活動している女性クリエイターにとって、タイムマネジメントは大きな問題です。そこで、そのような女性たちのマネジメントを行い、フリーの立場ではなかなかチャンスがない、大企業と関わる案件にも携わってもらえるような門戸を開けたらいいなと考えました。

 

先入観を持たず、第一印象や直感を大切に

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Q:食に関するプロデュースで、最近はどのような傾向がありますか?

 

松田:ひとつの潮流として、食材を加工して「付加価値」をつけて販売するというものがあります。生産者が二次、三次産業にまで関わる「六次化」という言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。付加価値にもいろいろありますが、僕が大切にしているのはストーリーです。ここでストーリーのある商品の例として、私が「ippin」でもご紹介している与論島の「46ジンジャーエール」のお話をすると、これを作っている方は、もともと与論島の出身ではなくて、亡くなったお父さんが与論島出身だったそうです。父の故郷が見たいと初めて訪れた与論島を気に入り、脱サラして移り住み、お父さんの友人だった生姜の生産者さんと出会ったことで、ジンジャーエールが誕生しました。そのようなストーリーを知らずに飲んでも美味しいのですが、ジンジャーエールを作っている方にお会いしてこのストーリーを聞いた時に、ぜひ一緒にやりたいと思いました。このように、ストーリーのある商品は魅力的なだけではなく、それをきちんと発信するということが、プロデュースをする上でとても大切です。「ippin」では、今後もそのように地方の小さな会社で一生懸命作られているいいものを紹介したいと思っています。

 

もうひとつの潮流として、消費者目線的な人が商品開発に携わるケースが多いのも事実です。以前なら料理研究家や料理人、パティシエが地方の○○を使ってプロデュース、という商品がたくさんありましたよね。でも今は、女子大生が考えた○○のように、消費者側が食べたいものを作ってもらうパターンがどんどん増える傾向にあります。もしかしたら今後は、バナナジュースを作るためのバナナ、アップルパイを作るためのりんご作りというものが出てくるんじゃないかな、と思っています。

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Q:松田さんがプロデュースを手がける際、商品の付加価値をどのように引き出しているのですか?

 

松田さん:やはりコミュニケーションの一言に尽きますね。「このイチゴは美味しいのでプロモーションしてください」と言われても、生産者の方たちがどのような思いで、どういう手間暇をかけてそのイチゴを美味しくしているのか、ということを自分がわかっていないと、うまく発信できないと思うんです。また、報道カメラマンの頃に、よく「その現場の第一印象を大切にしろ」と言われていました。今もそれを大切にしていて、第一印象で感じたことをその後の商品開発のアドバイスにつなげていくことも多いですね。初めて人に会うときは、極力まっさらな状態で行くようにしているのもそのためです。下調べして得た情報が必ずしも正しいとは限らないので、余計な先入観を持たないように心がけています。

 

Q:最後に、今注目している地域はありますか?

 

松田さん:大阪、京都など関西に注目しています。特に大阪は大きなローカルという印象で、ローカル色を色濃く残したまま大きくなっているような不思議な都市だと思っています。そういう意味で非常に興味がありますし、今後いろいろチャレンジできたらと思っています。そして僕の故郷・青森には、今後も注目し続けたいです。

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【プロフィール】

青森県弘前市生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。NHKに入局後、報道カメラマンとして日本各地域を取材。2007年に退職し、企画立案、飲食プロデュース、社会人学校運営などを経て、2010年に株式会社オアゾを設立。フリーで働く女性クリエイターのマネジメントに始まり、食生活のスタンダードを向上させるというコンセプトのもと、地域資源のブランドコンサルティング、商品開発など、食を中心とした企画プロデュースに携わる。2014年経産省クールジャパンMORE THAN PROJECT 「KANAORI」事業プロデューサー、光文社『和食style』コンテンツ監修。2015年5月には一般社団法人「日本パイ倶楽部」共同代表として、「ごはん、パン、パイ」を合い言葉に、パイを食する活動もスタート。

※掲載情報は 2015/07/01 時点のものとなります。

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