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激しさ、静けさ、午後、夜、都会、ビーチ。あなたが思い浮かべるのは?
「日本酒の粋を集め、その"至高の価値"を届ける」という思いから生まれたSAKE HUNDRED。目指す酒は”100年誇れる1本”というシリーズからこの春登場する新作が『天雨』(てんう)です。
公式リリースによれば「天から落ちてくるように降り注いだ、儚く、繊細で、美しい雨。そんな一瞬の感動を『天雨』という銘柄名に込めました。“天”からしとやかに注ぐ“雨”のように、繊細で瑞々しい1本です」ということですが、味わってみるとまさにその名の通り雨のシーンが浮かびます。その裏には厳選した米、卓越した磨きの技術などがありますが、ここでは詳しくは触れません(公式サイトに丁寧な説明があります)。伝えたいのは、いい酒からはイメージがとめどなく膨らんでいくということ。
天からの雨。あなたにとって雨のシーンはどんなものなのでしょう? センチメンタルという言葉を肯定的にとらえることもあれば否定的にとらえてしまうこともあるように、雨は時にやさしいけれど、時に心の重さを増幅させてしまう。冬の心まで凍てつかせてしまう雨もあれば、やさしく包んでくれる春の雨もあるし、南国のシャワー、懐かしい夕立、虹の前のオープニングアクト、1日の終わりを静けさの中で伝える雨もある。都会で、古都で、田舎で、田園で、海で、強く、弱く、激しく、静寂。懐かしい曲でいえば時には壊れたピアノで、時にはクラシックな調べ。この酒の香り、風味、余韻からどんな雨の場面をあなたは思い浮かべるのでしょうか。
私は今、天雨を味わった瞬間を思い出しながら、ジョージ・ウィンストンの美しいピアノの調べ「Longing/Love」、そしてウィリアム・アッカーマンのオーガニックで繊細なギター曲、緑の山に降った雨が小川に注ぎ、それが次第に支流と交わりながら流れの速さを増し、海へと広がっていくという物語をつづった「Rain to River」という曲を聴きながらこのテキストを書いています。いや、打っているといったほうがいいでしょうか。音楽と指が不思議にリンクして、心なしかキーボードの音さえも美しく響きあっているような気がしてきます。
そう、私の天雨は静かな雨。その雨が丘の緑を霧のように包み、その先の緑の森をグレーのシェイドで幻想的に浮かび上がらせる。少しずつ夕闇が迫り、空気は少し冷たさを増すけれど窓は閉められない。この風景を見続けて、そしてこの静寂という音の中にいたいから。静かな雨は私のやすらぎ。スマホも手元にはないし、このあと、義務づけられたような出来事もない。癒しの時間。そんな時間と場所で味わいたいし、そんな時間と場所がなくてもこの酒を味わえば、そこにトリップできる。
少し冷やし目で味わった天雨。だからこその緑とグレーの静寂。そこから温度がほんの少しだけあがり、繊細な中に潜んでいた甘やかさが現れてくると場面は一変します。東南アジア、あるいはバリのリゾート。ボダニカルなコテージ。白を基調にした、ゆるめでも清潔感のあるリゾートウェア。夕方のシャワーが上がり、リゾートには明かりがともり始める。シャワーで少し蒸された庭の土や植物に海風が爽やかに吹き込むと、このリゾートのオープンエアのクラブのような場所から、MGMTのKidsがわずかに風にのって聞こえてきます。エレクトロポップで少しラウドでノイジーだけど青さとせつなさを裏側に潜ませた曲。その遠く、遠くの音と先ほどまでのシャワーの記憶が、この酒に混ざる。少しエキゾチック、でも癒しの時間。
ここまではイメージの中の出来事で、飲み終わったあとの余韻で浮かんだ場面は、なぜか現実。でもその現実も振りかえってみればファンタジーのようだったのだけれど。2010年2月の韓国・ソウル。昼の忙しい取材仕事を終え、一度部屋に戻った江南の高層ホテルの土曜、18時。広く大きく取られた窓から一望する江南が灰色から紺色に変わっていく中、降り続く雨。部屋の中は不思議なほど静寂で、あまりの静寂に負けてかけたアルバムはモービーの「Wait for Me」。エレポップ、オルタナティブ、ブレイクビーツ、アンビエント…多彩で奇才なマエストロの作品。その音楽のMVがライブになったかのような窓に広がる光景。あと1時間後には再びソウルの喧騒の中に、酒旅の期待をもって出かける間のクールダウン。エキゾチックさと心地よい疲労と高揚感と雨のもたらす癒し。複雑で、でも幸せな時間が、天雨の余韻によって思い出されました。
(ここで紹介したいずれの曲も定額音楽配信サービスに公開されているので、機会あればお聴きください)
どんな雨の場面か。そのセンチメンタルは否定的なものか、肯定的なものか。ただこれだけは言えるのではないかと思うのです。きっとこの雨は、緊張を解きほぐし、自分の時間に帰っていくものなのではないか。ハッピーという言葉のイメージもリラックスという言葉の幅も広いのですが、少なくとも、どんな雨の場面だとしても、最後は、ゆるやかな笑顔が浮かぶのではないかと思います。日本酒としては決して安い価格ではありませんが、その分、豊かな時間が過ごせることでしょう。場面を浮かべながらではなく、自然に場面が浮かぶ。香りから余韻までの変化で、酒そのものだけではなく変わる場面まで楽しめる。それが天雨というお酒の魅力です。
※掲載情報は 2021/03/19 時点のものとなります。
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キュレーター情報
ワインナビゲーター
岩瀬大二
MC/ライター/コンサルタントなど様々な視点・役割から、ワイン、シャンパーニュ、ハードリカーなどの魅力を伝え、広げる「ワインナビゲーター」。ワインに限らず、日本酒、焼酎、ビールなども含めた「お酒をめぐるストーリーづくり」「お酒を楽しむ場づくり」が得意分野。
フランス・シャンパーニュ騎士団 オフィシエ。
シャンパーニュ専門WEBマガジン『シュワリスタ・ラウンジ』編集長。
日本ワイン専門WEBマガジン「vinetree MAGAZINE」企画・執筆
(https://magazine.vinetree.jp/)ワイン専門誌「WINE WHAT!?」特集企画・ワインセレクト・執筆。
飲食店向けワインセレクト、コンサルティング、個人向けワイン・セレクトサービス。
ワイン学校『アカデミー・デュ・ヴァン』講師。
プライベートサロン『Verde(ヴェルデ)』でのユニークなワイン会運営。
anan×本格焼酎・泡盛NIGHT/シュワリスタ・ラウンジ読者交流パーティなど各種ワインイベント/ /豊洲パエリア/フィエスタ・デ・エスパーニャなどお酒と笑顔をつなげるイベントの企画・MC実績多数。