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濃い味の八丁味噌カレーにカツがごろり2つの強いインパクト
今年も幕張メッセで開催された食の業界のプロフェッショナル向けトレーディングショー「FOODEX」。毎回リサーチと後学のために参加しているが、年を追うごとに感じているのが中食、内食分野の市場規模拡大。外食産業ももちろん頑張っているが、目に見えてニーズ増を感じるのが中食、内食であった。
御多分に洩れずレトルトカレーも進化が激しく昔ながらの手法製法でやっているメーカーは立ち行かなくなって行くのではないか、と感じるようなスピード感で変化が進む。とにかく現在のレトルトカレーの進化は目覚ましい。
色々な要素があるレトルトカレーの進化。いくつか挙げるとすれば、まず大きいのはレトルト臭と呼ばれるものを抑える技術の進歩。これは消費者から見たレトルトカレーの価値観の変化に大きく影響していると思われる。レトルト殺菌の技術研究が進み、かなり美味しい物が出来上がっている。
具材サイズの大型化、カレーソース自体のレベルアップ、価格帯の拡大と高価格帯を受け入れる市場ができてきたこと、などの要因もあるであろう。また「FABEX(業務用食品展)」など見にいくと、小ロットでカレーの製造を請け負う会社も散見できる。あのデリーもそんな業務を請け負う事業を始めたようだ。
そんな中で、とあるメーカーからいただいたサンプルのレトルトカレーがすごかった。
素直にここ、ippinに紹介をしたくなったのだ。
それというのもこのレトルトカレー、なんと驚くべきことに袋からカツが出てくる。そう、揚げ物のカツ。あれが入っているのだ。どういうことなんだ、と心から驚いた。そんな様子をメーカーの担当者は面白そうに眺めながら商品の説明を続けてくれた。
当然ながらレトルトカレーのカレーソースの中に浮かぶカツ。それをパウチするわけでサクサクカリカリなぞ望むべくもないわけだが、そうではなく、煮込みカツというような風情になっており、それが悪くないものだというのだ。これは自分で確かめずにおれない。ショーの会期後に自宅でレトルトパウチを温めてみた。
具材が大きい、それはもう間違いなくそうなわけで、それというのも箱からレトルトパウチのパックを出した時点で手のひらにでこぼこした手応えを感じるのだ。よくあるレトルトカレーとは違う大きな膨らみを手で触ってわかる。それもあって少し時間をかけて念入りに温めてみた。
さて、封を切る。甘い香りが上がる。そうか、八丁味噌を使ってあったのだな、と思い出す。
さて、袋を傾けると揚げ物が2つ、レトルトパウチからころりと転がり落ちてくる。わかってはいたのだが、やはり驚き、それとともになんだか楽しい気分になる。カツカレーが袋に入ってやってきて、目の前で完成する。不思議なものだ。
さて、カレーの時間だ。
カレーソースは甘く、深い八丁味噌の味が強く出ている。これがカレーというよりはビーフシチューに似た味わいを醸し出す。ストレートにうまいと思わせるあま味系だ。もちろんカレーと銘打っているわけだが、これは味噌煮込み、いや、この場合はどて煮であろうか。そのような方向の食べ物だという感覚がある。もうすでにカレーというより、一線を越えてあちら側にある味だと感じる。そしてそれは、悪くないもの、いや、良いものだ。
カツもきちんと食べ応えあるもので、やはりカツ煮という風情。八丁味噌の強い味に浸かったひとくちサイズカツ。これがなかなかにうれしいもの。他にも具材がたくさん入ったレトルトカレーは数多くあるのだが、カツが入っており、揚げたてサクサクのああいうタイプではないものの、「カツカレーという身分」を持つこのレトルトカレーにはやはり他の具材よりも喜びを感じてしまう。何しろこれは「カツカレーという身分」を持つカレーであるのだから。
そしてこの特徴強いカレーソース、茹で野菜、今回はブロッコリーを添えたが、このような野菜をディップして食べると実に具合がいい。にんじん、じゃがいもなどもよく合うはずだ。後味には八丁味噌独特の苦味が残るのも面白いし、好ましい。自分で野菜類を追加するのはよいのではないだろうか。
飛び道具的なレトルトカレーかと思いきや、その実力は高く、かなりクセになるいいものだった。うん、なんというか、レトルト食品の可能性はわたしたちが思っているよりずっと大きく、多様性に富んでいるのかもしれない。
※掲載情報は 2019/05/24 時点のものとなります。
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キュレーター情報
カレーライター・ビデオブロガー
飯塚敦
食、カレー全般とアジア料理等の取材執筆、デジタルガジェットの取材執筆等を行う。カレーをテーマとしたライフスタイルブログ「カレーですよ。」が10年目で総記事数約4000、実食カレー記事と実食動画を中心とした食と人にフォーカスする構成で読者の信頼を得る。インドの調理器具タンドールの取材で09年秋渡印。その折iPhone3GSを購入、インドにてビデオ撮影と編集に開眼、「iPhone x Movieスタイル」(技術評論社 11年1月刊)を著す。翌年、台湾翻訳版も刊行。「エキサイティングマックス!」(ぶんか社 月刊誌)にてカレー店探訪コラム「それでもカレーは食べ物である」連載中。14年9月末に連載30回を迎える。他「フィガロジャポン」「東京ウォーカー」「Hanako FOR MEN」やカレーのムック等で食、カレー関係記事の執筆。外食食べ歩きのプロフェッショナルチーム「たべあるキング」所属。「ツーリズムEXPOジャパン」にてインドカレー味グルメポップコーン監修。定期トークライブ「印度百景」(阿佐ヶ谷ロフトA)共同主催。スリランカコロンボでの和食レストラン事業部立ち上げの指導など多方面で活躍。