記事詳細
紹介している商品
「一番好きな食器のブランドは何ですか?」
料理教室や洋食器セミナーを主宰するようになってから、度々聞かれるようになった質問です。
そう聞かれたとき、私はいつも、「“一番”はありません。食器全般が好きなのです。」と答えています。
とはいえ、「特別な思い出を持つブランドはありますか?」と聞かれたときには、迷わず答えるブランドがあります。それが、ハンガリーの名窯「ヘレンド」です。
今年最後の記事となる今回は、私がヘレンドに持つ想いと、ヘレンドが一躍有名となるきっかけとなったシリーズをご紹介いたします。いつもにも増して長文となっていますが、お付き合いいただけましたら幸いです。
両親を洋食器の虜にした、魅惑の天使
「亜美子さんは まだ小さかったから知らないと思いますが、私と洋食器の出会いは、洋食器コレクターの友人からの1本の電話です」。
これは、ある時母が私宛に送った手紙の一部です。
「ある日彼女から『大変珍しい絵柄のヘレンドを入手したの。2組手に入ったので、1組いかがかしら?』という電話があり、早速見に行きました。
それはフンボルトというシリーズの復刻版でした。
私はエンジェルの愛らしい絵柄に言葉を失い、とても感動しました。そして、このデリケートな表情が陶磁器であることに驚き、美しい絵画を陶磁器に描くという、化学変化と高度な技術力に興味を持ちました。
その後、これがヘレンドの技術をサポートした大科学者フンボルトの88歳のお祝いに作成されたという由縁を知ると、ますます洋食器(磁器)発展の歴史と科学を知りたいと思うようになりました。
この時、高額な食器購入に反対していた父が、いつの間にか洋食器コレクターに変身したのは、知っての通りです」。
私自身は、父親の影響で洋食器の世界に興味を持ちましたが、そんな父は、妻である私の母から洋食器の魅力を紹介され、虜となったようでした。そして両親を虜にしたブランドこそが、ヘレンドだったことを、この手紙を通して知りました。
そういうこともあり、ヘレンドは私にとって「洋食器に触れた一番古い記憶」の洋食器であり、当時小学校に入学する直前くらいだった私は、子ども心にも「とってもキレイ!でも、これは、ぜったいに、おとしたらダメなものだ」と感じ、ヘレンドの器を持つ手に力が入ったことを、強く覚えています。
一年前、日本でヘレンド展が催された際に、偶然お会いしたハンガリー本社のCEOアッティラ・シモン氏に思わず駆け寄り、「私は小さな頃から、ヘレンドが本当に大好きです。いつかハンガリーのヘレンド村に行きますので、その時は是非再会したいです!」と声をかけ、「ヘレンドに来た時には案内しますよ」という社交辞令を本気にして、その年の夏に単身でヘレンド村へ行き、シモン氏との再会を果たしました。
(ハンガリーにあるヘレンドの工房にて。写真右がCEOアッティラ・シモン氏)
「洋食器に触れた一番古い記憶」も、そこから数十年経ち、社長に会いにハンガリーまでひとりで行ってきた思い出も、その全てが、かけがえのない出来事。ヘレンドは私にとって、特別な思い入れを持つブランドであり続けるのだろうと思っています。
ヘレンドはどんな窯?
さて、そんなヘレンドの歴史は、遡ること約190年前の1826年から始まります。
ヘレンドはハンガリーの首都ブダペストの南西120kmほどの、緑豊かな田園風景の中にある小さな村にある磁器工房です。
(ヘレンド村の周辺風景)
ハンガリーの小さな村にあるヘレンド窯が、なぜこれほどまでに世界中の貴族や王室に愛される名窯となったのか。
その歴史を紐解く中で、ぜひご紹介したいシリーズが、今回私の選んだ逸品「ヴィクトリア」シリーズです。
イギリス王室と深い繋がりのある格式高いシリーズ
ヘレンドが一躍世界中にその名を広めるきっかけとなったのは、1851年にロンドンで開催された世界初の万国博覧会でした。
この万国博覧会で、当時まだ無名だったヘレンド窯が出品したディナーセットを、開催国イギリスのヴィクトリア女王が気に入り、ウィンザー城の食卓用にお買い上げになられたのです。
当時のイギリスといえば、7つの海を支配する大英帝国の絶頂期。そんな帝国の女王様がお買い上げになられたディナーセットは、そのまま「ヴィクトリア」と名付けられ、広く知られるようになりました。
(ヴィクトリア・ヒストリック。ハンガリーのヘレンド本社に併設されている博物館にて)
(ヴィクトリア・ブーケ。ハンガリーのヘレンド本社に併設されている博物館にて)
当時のヘレンド窯の工場では60人ほどが働いており、その生産のほとんどは手工業方式で行われていました。これは、機械による生活用品の生産が着実に普及し始めていた19世紀半ばにおいては、後進的ともいえるものでした。しかし、実はこの「遅れ」こそが、その後のヘレンドにとって長所となっていきます。
というのも、万国博覧会終了後のイギリスでは、工場で大量生産された安価な量産品に対して、中世の熟練した職人技を復活させようとする「アーツ・アンド・クラフツ運動」が起こります。こうした時代背景の中で、ヘレンドのあえて手間と時間のかかる手仕事を重視する方針や、品質の高さへの厳しいまでの追求心が、多くの人々の心を魅了していくこととなったのです。
現在でもこのヴィクトリア・シリーズは英国王室との縁が深く、最近ではウィリアム皇太子とキャサリン妃のロイヤルウェディングで、国からのお祝いとしてハンガリーから英国王室へ贈られています。
デザインのヴァリエーションも「ヴィクトリア・プレーン」「ヴィクトリア・ゴールド」「ヴィクトリア・プラチナ」など、さまざま。
「ヴィクトリア・プレーン」
「ヴィクトリア・ゴールド」
「ヴィクトリア・プラチナ」
東洋風な牡丹の花と蝶が乱れ舞うデザインは、使うたびに華やかな気分になれます。
ぜひ皆様にも、手に取って、ヴィクトリア女王も魅せられた華やかな世界観を感じ取っていただきたいです。
※掲載情報は 2018/12/23 時点のものとなります。
- 4
キュレーター情報
料理家/西洋陶磁史研究家
加納亜美子
洋食器を中心とした高級食器シェアリングサービス「カリーニョ」や、食器の魅力を伝えるため「おうちレストラン」をコンセプトとした会員制料理教室「一期会」を運営。洋食器輸入代理店とのコラボレーションイベント、百貨店文化サロンでのセミナー講師、レシピ開発、商品開発、WEB雑誌へのコラム執筆など、多岐にわたり活動中。