刺身こんにゃく
大野屋コンニャク店 住所:〒367-0046 埼玉県本庄市栄2丁目12-5
「昔は豆腐よりこんにゃくの方が高かったんだよ~。」と、こんにゃく屋『大野屋』の根岸良幸社長は嘆きます。『大野屋』のこんにゃくは、300円台。哀しいことに、それでも高いという人がいるのです。こんにゃく程、哀しい食材はないと私は思います。
こんにゃくの原料、こんにゃく芋の栽培方法は意外に知られていません。こんにゃく芋は、種芋から成長するのに2~3年かかります。春に種芋を植えると新イモができ、そこから地下茎が伸び、秋には生子(きご)というこんにゃく芋の赤ちゃんが生まれます。秋になると芋を掘り起こし、13度以下にならないように保管。場所によっては、暖房を入れることもあるそうです。そして翌年の春に再び、芋の植付けをします。これが芋の一年生。これを秋に収穫したものは2年生。さらにその次の春に植えて秋に収穫したものを3年生と呼びます。こんにゃく作りに適しているのはこの3年生なのです。
こんにゃく芋は寒がりで低温に弱く、腐りやすいため、収穫してから次に植えるまでの保管がとても難しい、虚弱体質。病害虫にも弱いため、産地では土壌消毒が必須。かつて、群馬でこんにゃく畑の見学をしたことがあるのですが、防護服を着用しての土壌消毒を見ると、そんなこんにゃく芋で作るこんにゃくを食べたいとは思いませんでした。
これほど、手間暇かけて作るこんにゃく芋ですが、一般的にはこれを原料とするより、こんにゃく粉で作ることが多いそうです。こんにゃく芋の生産者も激減しているそう。
『大野屋』のこんにゃく芋は、なんと有機認証を取得されている伝説の富岡市の堀込さんのもの。どれほど、栽培に苦労されていることか! そう思うと、300円は決して高くないと思います。
夏になると食べたくなるのが、『大野屋』の刺身こんにゃく。こんにゃく芋を乾燥させたチップを煮て、凝固剤で固めます。その時、凝固剤の量を最小限にすることで、とろけるような絶妙な食感が生まれます。
『大野屋』は、創業120年の老舗こんにゃく屋さん。安全な原料でつくられていることをパッケージに書いたり、声高で叫んだりすることもなく、ごく当たり前に使用しています。こんにゃくは独特のアクがあり、臭いもあります。こんにゃくの製造のポイントは「缶蒸し」という工程。出来上がったこんにゃくを一晩、お湯につけて、アクをゆっくり抜くことです。
現在では、この仕上げの工程をやっていないメーカーが大半だといいます。では最近よくみかける下茹でなしで使えるこんにゃくは……? 原料の段階である種の添加物を入れるといわれています。つまり手を抜くことができて便利なものには、理由があるということです。
群馬県の女性に肌の美しい方が多いのは、うるおいを守る働きのある「セラミド」を含むこんにゃくをよく食べるからだといわれています。
また、こんにゃくに含まれるグルコマンナンは水溶性の食物繊維で、カロリーが低いことからも、健康が気になる人には欠かせない食材です。
『大野屋』の刺身こんにゃくは、青海苔が入り、ぷるん、ぷるんと翡翠色に輝いています。
添付されている酢味噌は、これまた京都の白味噌と米酢を使った、化学調味料なしの安心印。こんにゃく芋の生い立ち、製造工程、そして、根岸社長のこんにゃくにも似た優しい人柄が表現された刺身こんにゃく。この夏もハマりそうです。
刺身こんにゃく 350円(税別)
大野屋コンニャク店 住所:〒367-0046 埼玉県本庄市栄2丁目12-5
※掲載情報は 2018/07/24 時点のものとなります。
料理家/フードディレクター
タカコナカムラ
山口県の割烹料理屋に生まれる。
アメリカ遊学中にWhole Food(ホールフード)に目覚める。
日本の伝統食・発酵食、乾物料理の第一人者として、数多くの商品開発や、オーガニックカフェのプロデュースに関わる。
現在、食と暮らしと環境をまるごと学ぶ「タカコ・ナカムラWhole Foodスクール」を主宰。
通信講座(がくぶん)では、
「野菜コーディネーター」「発酵食スペシャリスト」
「AGEフード・コーディネーター」など食と美や健康に関する講座を多数監修。
一般社団法人ホールフード協会 代表理事