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“味わうビール”を揺るぎなく造り続ける
昨今話題のクラフトビール。その発端は、1994年当時の細川内閣の目玉政策である規制緩和の一環で、ビールの製造免許に必要な年間最低製造数量を2,000klから60klに引き下げたという「地ビール解禁」にあります。その新法の下、いち早く製造免許を取得したのは北海道の『オホーツクビール』と、愛媛県の『梅錦山川』でした。
そこから四半世紀近くたった今、たくさんのブルワリーが免許を取得して創業し、そして淘汰されてきました。その中で『梅錦山川』の『梅錦ビール』は変わらず西日本を中心にたくさんのビールファンに愛され、その美しいボトルを見つけるだけで目を輝かせるファンが多数います。
その魅力の大きな要因は“味わうビールを造る”という創業当初から一貫したポリシー。『梅錦ビール』は、日本酒造りの技術も生かしつつ、どのビールもどこか優しい甘みを感じる洗練された味わいがあります。中でも、クラフトビール好きを自認する人たちが「やっぱりこれだよね」と好きな銘柄にあげるのが「アロマティックエール」です。
銘品の生まれる場所、生み出す人
ブルワリーがあるのは愛媛県四国中央市。酒蔵の入口には杉玉が下がり、新酒の出来上がりを知らせています。その母屋の奥に少し入ったところにあるのがブルワリー。元々日本酒の酒蔵で使用していた建物は、天井高もあり広々としていて大きな醸造タンクも余裕で整列しています。が、醸造作業はヘッドブルワーである佐伯政博さんがたった一人で行っており、また空調設備はないため夏はとにかく汗だくの作業になるそうです。
ブルワリーやビールについて、佐伯さんは穏やかな語り口で説明をしてくれました。さらにせっかくだから、と発酵が終わって貯酒直前の「アロマティックエール」を特別に飲ませていただきました。
完成した「アロマティックエール」は熟した果実のような豊かな香りとモルトの深み、ホップの苦味が絶妙のバランスを楽しめるビールです。この貯酒前のビールは「若ビール」と呼ばれ、そのやや白濁した液体から溢れ出す様々な香りが次から次へと見え隠れし、複雑に絡み合います。そんなやや粗削りなビールがこの後時間をおいてあの成熟した味わいに育っていくのです。
愛媛の名産との相性もぴったり
かくいう私も昔からこのビールの大ファンです。このビールは、アルコール度数8.5%とボディもしっかりしているので、例えば赤身肉のステーキなどボリュームのある料理とも相性抜群。またその果実のような香り高さは、オレンジピールのチョコなど、スイーツとの相性も良さそうです。
そこで今回私がお勧めしたいおつまみは、愛媛県のお菓子「パン豆」の伊予柑味。これは一般的にはポン菓子といわれるお米から作るお菓子で、愛媛県東予地方ではこう呼ばれています。愛媛県産のうるち米と愛媛県産の伊予柑の皮を使った軽やかで風味豊かな「パン豆」を口に入れ、「アロマティックエール」をごくり。すると、伊予柑の果汁が突然口いっぱいにほとばしったような感覚に陥ります。実に生き生きとした柑橘のライブ溢れるペアリング! これはぜひ味わってもらいたい驚きです。
改めて、グラスに注いだ「アロマティックエール」をいただきます。汗をかきつつ丁寧に造られていたビールは、熟成を経て、穏やかで上質な味わいに仕上がっています。それはまるで、穏やかな口調で誠実にビールへの想いを語る佐伯さんそのもののようなビール。「これからは瀬戸内のレモンやライムを使ったビールなど、土地らしさや梅錦らしさを表現するビールを造っていきたいと思います」と佐伯さん。これもきっと、また惚れ込んでしまうのかもしれません。
※掲載情報は 2018/07/22 時点のものとなります。
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キュレーター情報
ビアジャーナリスト/パンコーディネーター
宮原佐研子
日本パンコーディネーター協会認定パンコーディネーター、日本ビアジャーナリスト協会所属ビアジャーナリストとして日本ビアジャーナリスト協会HP、雑誌『ビール王国』(ワイン王国)、世界22カ国158本のビールを紹介するe-MOOK『ビールがわかる本』(宝島社)、ビアエンタテインメントムック誌『ビアびより』(KADOKAWA)他執筆。『ビール王国』では、「コンビニ限定うんまいビア ペア」で、コンビニエンスストアで買えるビールとパンのペアリングを連載。日本パンコーディネーター協会主催の講座「ワインよりおすすめ?パンとビールのおいしい関係」でパンとビールのペアリング体験講座も実施。