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ニラを効かせた挽肉カレーは餃子生まれ。餃子がカレーに大変身。
「FOODEX」などの食品トレーディングショーでサンプルをもらうことがよくある。その中でちょっと捨て置けないうまいものに出会った。なんだろう、この味。どこかで食べたことのある味なんだが。はて、どこで食べたのか。
『宮島醤油』という醤油の老舗醸造蔵がある。明治15年創業の九州は佐賀唐津に本社を置く、醤油と各種食品製造のメーカーだ。醤油醸造を柱として味噌、つゆ、だし、焼肉のタレやめんつゆ、ドレッシング、缶詰、レトルト食品から冷凍食品まで、幅広い食料品製造を行っている。実はレトルト製品のOEMでも評価が高く、日本各地からの開発依頼があると聞く。OEMとは自社では生産設備を持たない会社からの依頼を、生産工場を持つ製造会社が請け負って開発などを行うことをいう。委託者商標による受託製造などともいわれるものだ。
仕事柄わたしも『宮島醤油』の名前と評判は知っていた。前回の食品トレーディングショーの「FOODEX」で『宮島醤油』のブースを訪れたときにサンプル商品を少しいただいた。その中にあったのが今回紹介をする、「餃子店のまかないご飯 餃子の具でカレー作ってみた。」という製品。『宮島醤油』のECサイトでは「餃子の具でカレー」とシンプルな表記になっていた。『宮島醤油』オリジナルの自社製品。パッケージには「宇都宮餃子会承認商品」というラベルと共に宮島のロゴが併記される。これがなかなかに優れたレトルトカレーだったのだ。
パッケージがちょっと面白い。「カレー」と大きく表記があるのにその後ろには「餃子の街 宇都宮」という文字も描かれる。「にんにくとニラの香りがカレーに合う!」というキャッチコピーが踊るがちょっと想像がつかない。パッケージを眺めてそんなことを思っていると、湯が沸いた。さて、パウチを温めよう。
封を切り、皿に盛り付ける間にぷーんといい匂いが立ち込める。漂う、というより立ち込める感じだ。
香りが強い。胃袋を強く刺激される。おいしそうだ。
一口食べてみると、これが思いのほか旨いのだ。驚いた。
豚挽肉にニラ、ニンニクとくればこれは確かに餃子の中身。パッケージの裏を見るとニラやニンニクの他にもニンニクの芽、タマネギ、タケノコ水煮、ラー油、生姜など使われていて面白い。材料はまったくもって餃子さながら。そこにカレーとしての要素、カレー粉やその他スパイスをバランスよくブレンドさせて着地点を見つけている。ラー油などもきかせ、かなりの餃子感を出しながらもカレーでギリギリとどまる面白さ。これにはちょっと驚いた。実に面白い。要するに餃子餡を使って作ったキーマカレーというところだろか。センスがある。
正直にいうが、最近食べたレトルトの中でも十指に入る美味しさと感じてしまった。
思わずごはんをお代わりしてしまうアタックの強さと濃い味は餃子にもカレーにも共通するものだ。食べているとなんだか楽しくて仕方がない。こういう、カレーとそうではない料理の境界線あたりに位置する食べ物は難しいものもあるが、これは間違いなく大変にいいものに感じる。例えるにハーフ美人とでもいうところか。
食べ終わってホッとして。ところがなんだかムズムズとする。そうだった、一口目にあっと思ったこの味。どこかで食べたことのある味なんだが、はて、と思っていた味。やっと思い出した。
この味、そうだ、あの屋台のカレーの味にそっくりではないか。
およそ20年前のJR大森駅。海側の改札の向こうにそびえ立つオフィスビル、大森ベルポート。いすゞの本社やニフティなどが入っていた。当時わたしはそこの飲食店街の中にある、焼き鳥店の雇われ大将をしていた。ざっと70席ほどあったろうか。忙しい店でなかなか休まることもなかったが、楽しみがあった。それはビルの裏の公園前に店を出すカレー屋台の軽バン。ちょっと面白いカレーで勝負をしていた。なんと、ニラをつかったカレーライス。これが本当に美味しかった。自店のランチタイムが始まるほんの少し前に急いで買いに出て、店に戻って店を開けて。戦争のような数時間をやり過ごして店を閉めて。アルバイトを帰してからのお楽しみ。
細かく挽いた挽肉がたくさん入るカレーで、とろりとしている。屋台のトラックに「辛い味噌入れますか」と張り紙がされているのだが、この辛みペーストがまた美味しくて。必ずお願いして一緒に入れてもらっていた。強いニラとニンニクの味、香り。空腹と疲れが同時に払拭される感覚があって、本当に好きだった。屋台が出ていたら絶対買っていたあれ。この『宮島醤油』の「餃子の具でカレー」はあの辛い味噌をつけてくれるあの店の味とすごく似ている。とんでもないものに出会った。
一箱ではどうにも抑えがたく、早々に「餃子の具でカレー」を追加で購入、ストックした。
食べながら思うのはあのカレー屋台のトラックのこと。ちょっと太った兄さんが汗をかきかき「辛い味噌入れますか」と聞いてくれたことを思い出す。屋号も思い出せないが、今はどうしているのだろうか。
※掲載情報は 2018/05/16 時点のものとなります。
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キュレーター情報
カレーライター・ビデオブロガー
飯塚敦
食、カレー全般とアジア料理等の取材執筆、デジタルガジェットの取材執筆等を行う。カレーをテーマとしたライフスタイルブログ「カレーですよ。」が10年目で総記事数約4000、実食カレー記事と実食動画を中心とした食と人にフォーカスする構成で読者の信頼を得る。インドの調理器具タンドールの取材で09年秋渡印。その折iPhone3GSを購入、インドにてビデオ撮影と編集に開眼、「iPhone x Movieスタイル」(技術評論社 11年1月刊)を著す。翌年、台湾翻訳版も刊行。「エキサイティングマックス!」(ぶんか社 月刊誌)にてカレー店探訪コラム「それでもカレーは食べ物である」連載中。14年9月末に連載30回を迎える。他「フィガロジャポン」「東京ウォーカー」「Hanako FOR MEN」やカレーのムック等で食、カレー関係記事の執筆。外食食べ歩きのプロフェッショナルチーム「たべあるキング」所属。「ツーリズムEXPOジャパン」にてインドカレー味グルメポップコーン監修。定期トークライブ「印度百景」(阿佐ヶ谷ロフトA)共同主催。スリランカコロンボでの和食レストラン事業部立ち上げの指導など多方面で活躍。