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豊かな水源の大野盆地
今年、記録的な積雪だった福井県大野市にある『河原酢造』のとびっきりの米酢を紹介します。
奥越前に位置する大野市は、海抜1,500メートルの山々に囲まれた大野盆地にあります。大野盆地の奥には広大なブナが広がっています。
広葉樹であるブナは保水量が多いので、森を作るだけではなく、水源も守ってくれます。大野市では、今でも町の多くの家庭が地下水を活用しています。醸造にとって、水は品質に影響を与える大きな要因です。そんな水の美しい町で、『河原酢造』は江戸時代末期に創業しました。当時江戸では、ファーストフードとして握り寿司が大ブレイクしていました。それまでの寿司といえば、何年もかけて魚を発酵させる「なれ寿司」のことでした。江戸の人口増加とともに、屋台で「早寿司」として現在の握り寿司が楽しまれるようになっていったのです。そのブームを支えたのは、愛知県半田市の中埜家、現在のミツカンが作った粕酢でした。
酒粕酢造りから純米酢へ
『河原酢造』も、創業当時ブームだった酒粕酢作りからはじまりました。当時は食べる米を生産するのがやっとという時代でしたので、当然、純米酢を作ることなどできません。しかし、経済の安定や農業技術が発展していったことにより、6代目の頃から現在の純米酢造りが始まったそうです。
2013年に7代目の河原泰彦さんに醸造のバトンが渡り、現在では30代の若き蔵主が酢造りを担っています。
酢造りは酒造りから
米酢の原料は「清酒」です。あたりまえのようですが、酢のメーカーは清酒造りからはじめるのです。しかし現在では、原料酒を購入する蔵も少なくありません。酢メーカーとは名ばかりで、仕入れた酢をブレンドして瓶詰め出荷しているところもあります。
米酢の米は食べるお米と同じ程度の1割ほどを精米し、米の栄養を活用してアミノ酸の豊富な清酒を作ります。ところで、米酢の美味しさや見極めってなんでしょう?
米酢の製法は、静置発酵法と全面発酵法に分かれます。もちろん、前者の方が美味しい酢であることは間違いないのですが、発酵法を越えるポイントは、よい清酒の仕込みにあると河原さんは話されます。
良い清酒とは? 原材料である米が安心安全であること。精米から洗米、蒸米とひとつひとつの行程をいかに丁寧に行うかが重要になってきます。
「静置発酵」だから○、無農薬米だから○という選び方では、醸造品は語れないと、蔵の見学をするごとに感じます。
老梅酢の魅力
「老梅酢」の特色は、ツーンとくる米酢の酸味、酸っぱさがないというところです。貯蔵期間が長過ぎると、ヒネ臭がでて酢が主張しすぎてしまいます。魚の酢〆や淡い香りを楽しむ野菜や魚介の酢の物には、合わないのです。『河原酢造』の「老梅酢」は、フレッシュさが魅力のひとつであると、私は感じています。酢の物が嫌いな方でも、いけます。
蔵を訪ねた際、7代目泰彦さんの説明には気負いが全くなく、「特別なことではないです」とあたりまえのことを丁寧にやっているという謙虚さが感じられました。
老梅酢の値段ですが、この原材料の品質と製法で、この価格は安すぎるのではないかと思うほど。「みなさんがお求め安い価格で」というのも、河原酢造のこだわりのひとつだそうです
最後に、河原酢造のHPの一文を紹介します。
~私たちの製品をお使いになるときは、どうか山々や木々に降り注ぐ雨水や地下水のことを思い浮かべてみてください~
大野の自然の恵みに感謝し、酢造りを通じて農業を守り、気負うことなく家業を繋ぐ……。あたりまえのようで、できることではありません。
ブナの林の新緑の頃、また訪れてみたくなりました。
【価格】有機純米酢 老梅 500ml 464円(税込)
【住所】〒912-0401 福井県大野市吉8-25
※掲載情報は 2018/02/27 時点のものとなります。
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キュレーター情報
料理家/フードディレクター
タカコナカムラ
山口県の割烹料理屋に生まれる。
アメリカ遊学中にWhole Food(ホールフード)に目覚める。
日本の伝統食・発酵食、乾物料理の第一人者として、数多くの商品開発や、オーガニックカフェのプロデュースに関わる。
現在、食と暮らしと環境をまるごと学ぶ「タカコ・ナカムラWhole Foodスクール」を主宰。
通信講座(がくぶん)では、
「野菜コーディネーター」「発酵食スペシャリスト」
「AGEフード・コーディネーター」など食と美や健康に関する講座を多数監修。
一般社団法人ホールフード協会 代表理事