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ゆったりゆっくり。気難しくなく心優しいワインでリフレッシュ
現在、日本におけるワインの国別輸入先でトップシェアとなったチリ。安旨ワインとしての評価も定着し、スーパーマーケットやコンビニでもよく見かけ、親しみのあるワインとして日常のテーブルでも楽しまれています。一方では、面白みのない低コストワイン、カベルネ・ソーヴィニヨンばかりが目立っていて広がりがない、そもそもチリという国もよく知らないし、ただワインを飲んでいるだけという感じ…などの声もあり、結局は特別な時や、多少高価なワインを買う時はフランスやイタリア、時にはカリフォルニアという選択も多いようです。
筆者は今回、3週間、チリに滞在し、20以上のワイナリーを訪問しました。ここで出会ったワイナリー、そしてワインは、前者のイメージからさらに発見があるもの、そして後者のイメージ を覆す発見の連続でした。今どきのチリワインの面白さ、素晴らしさについて、「オーガニック」「冷涼」「ぶどう品種」「親しみやすさ」「最高峰」という 5 つのキーワードをもとに、日本でも入手可能なアイテムを紹介していきます。今回は「オーガニック」。
紹介するワイナリーは『エミリアーナ』。首都サンチアゴから車を 1時間30分ほど太平洋の方面へ走らせたカサブランカヴァレーという場所にあります。チリは雄大なアンデス山脈と長い海岸線の太平洋に挟まれた細長い国ですが、単純に、山から海にかけて高度が下がっていくわけではなく海側にも小高い丘が連続し、複雑な地形を成しています。さらに「冷涼」のキーワードの回でも触れますが、チリの海岸は、太平洋といっても海流の関係でとても水温が低く、その影響で海岸に近いエリアはむしろ冷涼。緑もすくすくと生息し、きれいな空気の中にあります。
その中でエミリアーナは、先進的であり原始的でもあるオーガニック栽培、ワイン造りを実践しています。画像のアルパカや雄鶏・雌鶏もその重要なキャスト。害虫を薬品で駆除するのではなく、自然の生き物である彼らが介在することで、最適な生態系のバランスがとれ、結果的に健やかなぶどうが育つというライフサイクルを実現しています。遠回りのように見えて、原始的に見えて、それが近代化の先に行きついた方法だったのでしょう。夏にアンデスで暮らす羊たちが冬には羊飼いに連れられてここにきて、また夏にアンデスに帰っていく。そんなルーティンもまた、自然なサイクル。植物の多様性もオーガニック栽培の方法のひとつ。エミリアーナの農園にはさまざまなハーブや野菜も植えられ、ぶどうと同じように育てられ、健やかに共生しています。エミリアーナはワイナリーではありますが、ここで生まれたオリーブオイルも人気。ピュアでフレッシュ、おだやかなスパイスがじっくり楽しめる逸品で、同様に濃厚ながらもどこか清らかな蜂蜜も看板。この農園のとれたての野菜をシンプルに塩(チリは塩も特産)とオリーブオイルで仕上げたガーデンサラダは、長旅で疲れた胃と体に心まで元気にしてくれました。
そしてワイン。スペイン出身でこの地の可能性にほれ込んでワインメイカーとなったノエリアさん(画像下/左の女性)は素敵な微笑みでこう言います。
「とれたぶどうを醸造所でブレンドするだけという意味でのワインメイカーという言葉ならそ れは好きではありません。私はネイチャー・アシスタントでありたいと思っています」。狂信的な自然派至上主義ではなく、ただ、この自然を生かしたワインを創りたい。
多彩なアイテムの中で、その思いが結実した 1本が『コヤム』。毎年ぶどうの割合や種類は変わりますが、2013年を例にとれば、シラー45%、カルメネール 24%、メルロー11%、カベルネ・ソーヴィニヨン
10%、ムールヴェードル 3%、マルベック 3%にプティ・ヴェルド 1%。エミリアーナのぶどうのショーケースのように7種類ものぶどうから造られますが、ワインメイキングというよりも前段のネイチャー・アシスタントでありたいという言葉通り、アロマも飲んだ感覚も、ブレンドのマジックを感じるのではなく、真っ先に感じるのはピュアさ、そして自然なパワーへと続く、この地の空気と大地。
大きい黒い果実が熟しているのではなくフレッシュに、小さく可憐な赤い果実が美しく熟して。そこからこの場所のオリーブオイル同様に柔らかで穏やかなスパイスや黒胡椒の小気味よさが表れ、ゆったりと余韻が続いていきます。刺激的な喜びではなく、今流れている時間をより豊かに、よりゆっくりと楽しむ。日常のテーブルで、オーガニックということを過剰にありがたがらずに、ただ、気持ちによいワインだな、という実感が持てる。造り手が努力するオーガニックへの取り組みは、決してあなたのグラスをストイックにするものではありません。金曜日の夜、ちょっとおめかしの部屋着で親友や家族と。今日の幸せを自然に、そのまま休日の元気に。そんな場面も似合うことでしょう。
きのことクレソンのバターソテーを加えた、たっぷり葉野菜のガーデンサラダに、蜂蜜とオリーブオイルと塩、胡椒。ライムを少々、そこに少しこのワインをまぜたドレッシング。チリの赤= 肉、ではないガストロノミーな楽しみも存分に。
※掲載情報は 2017/10/26 時点のものとなります。
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キュレーター情報
ワインナビゲーター
岩瀬大二
MC/ライター/コンサルタントなど様々な視点・役割から、ワイン、シャンパーニュ、ハードリカーなどの魅力を伝え、広げる「ワインナビゲーター」。ワインに限らず、日本酒、焼酎、ビールなども含めた「お酒をめぐるストーリーづくり」「お酒を楽しむ場づくり」が得意分野。
フランス・シャンパーニュ騎士団 オフィシエ。
シャンパーニュ専門WEBマガジン『シュワリスタ・ラウンジ』編集長。
日本ワイン専門WEBマガジン「vinetree MAGAZINE」企画・執筆
(https://magazine.vinetree.jp/)ワイン専門誌「WINE WHAT!?」特集企画・ワインセレクト・執筆。
飲食店向けワインセレクト、コンサルティング、個人向けワイン・セレクトサービス。
ワイン学校『アカデミー・デュ・ヴァン』講師。
プライベートサロン『Verde(ヴェルデ)』でのユニークなワイン会運営。
anan×本格焼酎・泡盛NIGHT/シュワリスタ・ラウンジ読者交流パーティなど各種ワインイベント/ /豊洲パエリア/フィエスタ・デ・エスパーニャなどお酒と笑顔をつなげるイベントの企画・MC実績多数。