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ほんのりと甘く柔和な香りの「ひやおろし」
繁華街では年末恒例の「イルミネーション」が始まり、早いもので今年も残すところ半月を切りました。
さて今宵選んだ一本は、【飛良泉 山廃純米 ひやおろし】です。
これは、秋田県の飛良泉本舗から今年の9月に出荷された山廃純米の「ひやおろし」で、購入してから約2ヶ月間、我が家の日本酒保管庫(実は大型冷蔵庫の野菜室なのですが)で寝かせておいたものです。
ご存じの方も多いかと思いますが、「ひやおろし」とは早春に搾った新酒を一度火入れし、その後ひと夏の間熟成させて、秋になって外気温が下がってきた頃に2度目の火入れを行わずに出荷するお酒のことで、要は「程よく熟成させたお酒」ということになります。
香りのトーンはやや強くて、「玄米パン」を想わせる穀物類の香りや、「バニラアイス」のような甘い乳製品の香りがあり、「ふくよかで丸く、ほんのりと甘く柔和な香り」が感じられます。口当りはしっかりとしていて、まずは山廃仕込み特有の厚みのある酸がぐっと前面に出てきて主張しますが、それでいて、優しい甘味と豊かで膨らみのある旨味とのバランスはちゃんと取れています。
余韻は長めで、後口にも明快でキレのある酸がはっきりと感じられます。
コクやボリューム感も十分にあり、「しっかりとした濃醇な飲み口で、野性味あふれる酸が際立つメリハリのある味わい」のお酒でした。
牛すじ大根
この「飛良泉」は、山廃仕込みならではの力強い味わいのお酒なので、あまり淡白な味付けの料理ではお酒に負けてしまうと思われたので、まずはこんな濃い目の味付けの料理、【牛すじ大根】でを試してみました。
これは「牛すじ肉(アキレス腱の肉)」を柔らかくなるまで長時間煮込み、そして大根と一緒に、醤油・酒・みりん・砂糖・出し汁を合わせた煮汁で炊いたもので、いかにも白いご飯が進みそうな「甘辛コッテリ味」の惣菜です。
ご飯の替わりに「飛良泉」を合わせてみると、このお酒の際立つ酸が、一瞬でこの料理の甘辛コッテリ味を包み込んで程良いレベルの味へと変化させ、そして牛すじの脂もキレイに流してゆきます。
お酒の酸が料理の味わいを洗練させてゆくような印象のなかなか面白くて相性の良い組合せでした。
ボンド・ドゥ・ソローニュ
続いてはタイプの異なる「酸」同志の相性が見たくて、【ボンド・ドゥ・ソローニュ】を試してみました。
これはフランスのロワール地方の「シェーブルタイプ」のチーズで、表面には程良く酸味を和らげて内部の水分を抜く為に「木炭の粉」がまぶしてあり、山羊乳特有のややクセのある香りと爽やかな酸味、そしてミルクの旨味が特徴のチーズです。
やや口を窄める程の酸が広がったタイミングで、お酒と合わせてみると、「シェーブル」の爽やかな酸と「飛良泉」の野性味溢れる酸、という2つの異なる酸が口の中でぶつかり合い、その後どちらの酸もややフラットなイメージへと変化してゆきます。
相性としてはもちろん「×」ではないのですが、両者の「酸」の個性が消えてしまうという点を考えると、やや面白味に欠ける組合せと言わざるを得ませんでした。
昔ながらのひやおろし、「山廃純米 ひやおろし」
話が「ひやおろし」全般のことに戻るのですが、近年は日本酒蔵の冷蔵設備が整ってきたことにより、火入れ後の急速冷却や夏の間の冷蔵庫熟成が可能になっていて、その結果として、ひと夏寝かしてから秋口に「ひやおろし」の名前で出荷されていても、「あまり熟成感が感じられないタイプ」のお酒が増えてきています。
もちろんそれらはそれらで、「今時のひやおろし」であると割り切って受け入れて、呑んで愉しめば良いとは思うのですが、今回こんな「昔ながらのひやおろし」を呑んでみて、やっぱり「オールドスタイル」の方がいいな~、と思ってしまうのは、私だけでしょうかね。
※掲載情報は 2014/12/17 時点のものとなります。
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キュレーター情報
酒匠・シニアソムリエ
佐藤茂夫
飲食業界に携わって今年でかれこれ30年目となりますが、その間にビヤホール,ブラッスリー,居酒屋,焼肉店,トラットリア,アイリッシュパブ,大型バーベキューレストラン,北海道料理店etc.の様々な業態のお店を渡り歩きました。
またその一方で、「ソムリエ」「利き酒師」「焼酎アドバイザー」「酒匠(さかしょう)」etc.のお酒に関わる様々な資格を取得し、2006年に開催された「第2回世界利き酒師コンクール」では、2度目のチャレンジで優勝を果たすことができました。
本業の合間には、これまで得た知識と経験をもとに、SSI (日本酒サービス研究会・酒匠研究会連合会)が主催する、日本酒の利き酒師講習会で講師役なども務めております。
素晴らしい日本酒の魅力を、できるだけ多くの人に判り易く伝えてゆきたいと思っておりますので、どうぞ宜しくお願いします。