香りのテイスティングはワインのごとし!「スタンプタウン・コーヒー・ロースターズ」

香りのテイスティングはワインのごとし!「スタンプタウン・コーヒー・ロースターズ」

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香りのテイスティングはワインのごとし!「スタンプタウン・コーヒー・ロースターズ」

サードウェーブといわれるコーヒーの潮流には、正直さしたる興味がなかったのですが、「Stumptown Coffee Roasters(スタンプタウン・コーヒー・ロースターズ)」のコーヒー豆に出合って、遅まきながら、その風味と味わい後味のよさに魅せられたのです。それは、私の事務所のもうひとつの最寄り駅、幡ヶ谷商店街近くに2年前にできたカフェ「PADDLERS COFFEE(パドラーズコーヒー)」で偶然出合ったのでした。「Stumptown Coffee Roasters(スタンプタウン・コーヒー・ロースターズ)」の正規取扱い店の旗艦店というこのカフェでは、それまで専らハンドトリップで抽出してきたこのスペシャリティ・コーヒーを、エスプレッソマシンやフレンチプレスを用いたスタイルでも提供しています。樹齢およそ50年という大きな桜の木が目印の幡ヶ谷のカフェは、いつも独特の時間が流れています。古いビル(もとは住居だったそうです)の1階の店内はどこか懐かしいウッデイなつくりで、お店のスタッフで半年かけて手作りで改装したものだそうです。全部で23席、天気のよい季節には桜の木の下のテラス席も使われます。木のドアを開けて、店内に入ってすぐのところにはビリヤード台ほどの大テーブルがあって、8人掛けのスツールも一体になった変わったデザインです。聞けば1920~30年代にアメリカの船内で使われていたものだとか。お客さん同士、自然に会話が生まれるような、そんな温かみあるテーブル。その上にはいつも野の花がさりげなくアレンジされていて、ほっとします。

 

カフェメニューには、ホットドックや、近所のカタネベーカリーさんのクイニーアマンなども並びますが、私が通う理由はコーヒー豆の購入。このStumptown Coffee Roasters(以下スタンプタウンと表記)の豆を自分でドリップ式で淹れたところ、他のコーヒーではすっかり物足りなくなってしまったのです。自慢ではないのですが、私は嗅覚だけは妙に敏感で、百貨店にオクサマのお供で着いて行くときに、一番苦手なのが化粧品売り場なのです。さまざまな匂いが行き交い、人工的な香りが充満するあの空間はまさに拷問以外のなにものでもありません。そんな鼻利きの私がこのスタンプタウンのコーヒーを気に入った理由は、ちょっとおかしな表現ですが、「冷めても“香る”コーヒー」だからです。第一印象の香りのアタックは、さほど強くはないのですが、香りの持続と変化が素晴らしいのです。冷めても香る、ぬるくなってもまた別の味わいが楽しめる、たっぷり淹れてデスクで飲む、まさにデスクワーカー向きの条件が揃ったコーヒーなのです。

香りのテイスティングはワインのごとし!「スタンプタウン・コーヒー・ロースターズ」

パドラーズコーヒーでは、この焙煎した豆をポートランドから週替わりで輸入しているので、店頭ではタイプ別の2種類あるいは3種類が常に揃います。その袋には名刺大のカードが添えられていて、カードには原産地、農園名、その豆で淹れたコーヒーの香りの表記が絵入りで書かれているのです。最初、コーヒー豆を買って帰ったとき、そのカードには無関心でしたが、キッチンに溜まったものを並べてみると同じ表記のものがないくらい、原産地名も、農園名も、その香りのマークにも種類がたくさんあることに気がつきました。スタンプタウンについて、ちょっと調べてみました。創業は1999年。創業者のデュエン・ソレンソン氏とカンパニースタッフは最高品質のコーヒーを追求。自らの足で農場を訪れるなど時間をかけて「高いクオリティーを誇る」小規模農園を探し、直接取引を進めていくのです。コーヒー生産者との関係も持続可能(サスティナブル)なものとなっていったのです。そしてスタンプタウンは、原産地から農園の特定、豆の品質などのデータの明示、焙煎(ばいせん)日をパッケージへ記載するなどコーヒーを格上げしていきます。それはワインの高級化へのメソッドとも酷似しており「コーヒーをワイン化したスタンプタウン」「革命的なコーヒービジネスの騎手」と言われているのです。「コーヒー愛好家の持つ味覚の洗練」を支援してくれた功績も見逃せません。香りの表現といえば、ワインではその香りを果物や植物、鉱物に例えてこう語ります……「熟れたパイナップルのような」、「フェンネルとミントのような」、「枯葉のような」、「火打石のような(一瞬、香りが思い浮かびませんが)」。

 

さらに動物に例えることもありますね。「ジャコウネズミのような」「猫のおしっこのかかった藁のような」などはワインの教科書に書いてあって、以前それを読んで何これ?!と思ったり、失笑したりもしましたが……、まぁ、それだけワインは多様な香りで表され、独特の言葉を探すということなのでしょう。そしてスタンプタウンのコーヒーのカードを見ていると、その語彙のバラエティや風味の奥深さに、ワイン同様引き込まれます。カードにはテイスティングノート風に3つの香りが具体的に記されているのです。「ライム、ココア、ミント」「チョコレート、ライム、キャラメル」「糖化したレモン、蜂蜜、レモン」「マンゴー、メロン、ナツメグ」……。ほら、ね。おいしそうでしょう?

 

次はどんな香りに出会えるのか、わくわくしてパドラーズコーヒーに通っています。そうそう、こちらのカフェでは時折ポップアップショップを行ったり、マルシェがあったりして、何か新しい発見もある素敵なご近所スポットなのです。

※掲載情報は 2017/07/14 時点のものとなります。

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キュレーター情報

後藤晴彦(お手伝いハルコ)

アートディレクター・食文化研究家

後藤晴彦(お手伝いハルコ)

後藤晴彦は、ある時に料理に目覚め、料理の修業をはじめたのである。妻のことを“オクサマ”とお呼びし、自身はお手伝いハルコと自称して、毎日料理作りに励んでいる。
本業は出版関連の雑誌・ムック・書籍の企画編集デザイン制作のアート・ディレクションから、企業のコンサルタントとして、商品開発からマーケティング、販促までプロデュースを手がける。お手伝いハルコのキャラクタ-で『料理王国』『日経おとなのOFF』で連載をし、『包丁の使い方とカッティング』、『街場の料理の鉄人』、『一流料理人に学ぶ懐かしごはん』などを著す。電子書籍『お手伝いハルコの料理修行』がBookLiveから配信。
調理器具から食品開発のアドバイザーや岩手県の産業創造アドバイザーに就任し、岩手県の食を中心とした復興支援のお手伝いもしている。

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