記事詳細
カンボジアの最も大切な年中行事「クメール正月」とは?
カンボジアが1年でもっとも祝福ムードにつつまれる「クメール正月」。正月と言えば、世界の多くが1月1日を新しい年を迎える日として祝福しますが、カンボジアには1年に3回の正月があります。1月1日はインターナショナル・ニューイヤー、中国文化の影響を受けた2月の旧正月、そして、もうひとつの正月が4月の「クメール正月」です。
一般的に「クメール正月」には故郷に帰省し、新年を家族と共に祝います。日本に滞在するカンボジア人も故郷へ帰る代わりに、カンボジア大使館に集まり、新年を迎えられたことを同郷の仲間とともに祝います。日本の正月はおせち料理を囲み、どちらかというと、静かに過ごすというイメージですが、カンボジアでは人が集まり、音楽をかけながら踊るなど、お祭りのように陽気に楽しくお正月を過ごす光景が見られます。
大使館前にある祭壇には次々と人が訪れ1年の無事を祈ります。カンボジアでは、90%以上が仏教徒です。クメール正月には祭壇にお供え物をして、新しい干支のテーヴァダー(女神)を迎える準備をします。
日本国内から集まり、久しぶりに会う友人と嬉しそうに語り合う姿が見られました。お祝いには伝統のカンボジア料理が欠かせません、大使館ではカンボジアから取り寄せた素材を使い故郷の味やカンボジアのビールを振舞って、集まった多くの人たちと新年を祝いました。
カンボジア大使に聞く! カンボジア料理の美味しさの秘密は?
今回は大使自ら、日本へ呼び寄せたカンボジア料理のシェフによる伝統的なカンボジア料理(クメール料理)をご紹介いただきました。同じ東南アジア地域の中でも、辛いものが好まれるタイやベトナムとはひと味もふた味も違うカンボジア料理の特徴をカンボジア大使のチア・キムター閣下に伺いました。
駐日カンボジア大使 チア・キムター閣下
【ノム・バンチョック(カンボジア風そうめん)】
朝食時やお昼の後の、ちょっと小腹を満たしたい時に食べられる米粉で作った伝統的カンボジア風そうめん。カンボジアの町中では天秤棒を担いで売りに来る庶民のおやつです。細切りにした生野菜を載せ、カンボジアのスープという意味の「ソムロー・クマエ」という温かいスープをかけて食べます。ハーブをすりつぶして作った「クルウン」というカンボジアならではの調味料を使ったさらっとしたスープです。ほかに「ソムロー・カリー」というカレー味のスープをかけるのも定番です。
カンボジアにはメコン川をはじめとした多くの川が流れ、川魚はとても身近な食材で、家庭でもよく食べます。「プラホック」はその川魚の身をすりつぶして数カ月から数年の間発酵させたものです。時間が経つほど旨味を増します。カンボジアの味噌ともチーズとも言われ、クメール料理には欠かせません。「ソムロー・クマエ」のスープの味を決める「クルウン」は、「プラホック」を使い、そこにレモングラスやターメリック、カンボジアのショウガ、にんにくなど香味野菜に塩を加え、石臼でペースト状になるまですり潰したものです。
「ソムロー・クマエ」は川魚から作った「プラホック」の出汁と、レモングラスなどの爽やかな香りで、旨味と香りをからめ、生野菜のシャキシャキした食感とつるっとしたそうめんをさっぱりといただくことができます。
【ターメリック、カンボジアのショウガ、レモングラス(左から)】
カンボジア料理でよく使われるターメリック、カンボジアのショウガ、レモングラス。スープからサラダ、炒め物まで様々な料理にたっぷりと使われます。
【ニョアム(カンボジア風サラダ)】
キャベツやニンジン、キュウリ、もやしとたっぷりの生野菜に蒸したエビまたは鶏肉と春雨を合わせ、魚醤やにんにく、唐辛子、ライムなどの調味料と和えたカンボジア風サラダ。ピーナッツを砕いたものがふりかけられます。辛味はほとんど感じられず、優しい味の爽やかなサラダ。ライムの酸味がアクセントとなり、ビールによく合います。
カンボジアの魚醤は「トゥック・トレイ」と言い、「プラホック」の製造過程でできる液体で、味も色もタイの「ナンプラー」とよく似ています。
【アンコール(カンボジアビール)】
ライトな飲み口と香り高いフルーティーな味わいで、辛味が抑えられているカンボジア料理との相性もぴったり。カンボジア国内では、最も多く飲まれている定番のビール。
【チャイヨー(カンボジア風揚げ春巻き)】
豚肉、キノコ、タマネギ、春雨をニンニクで炒め、塩・胡椒のシンプルな味付けで仕上げたカンボジア風の春巻き。ソースなどはつけずにそのまま食べるのがカンボジア風。
【チャー・クニャイ・サイックモアン(カンボジア風鶏肉のジンジャー炒め)】
カンボジア料理の定番のジンジャー炒め、鶏肉でも豚肉でも白身魚でも作ります。ポイントはずばり、鶏肉よりも多いと感じるほど大量のショウガ。よく炒めているので、ショウガの辛味は飛んでいますが、濃い目の味付けで一緒に炒めたタマネギが甘味を加え、日本人も好む甘しょっぱい味わいはご飯がすすみますよ。
【プノンペン(カンボジア黒ビール)】
ビールを楽しみたい方には、コクと苦味を楽しむカンボジアの黒ビール「プノンペン」がおすすめです。
【ソムロー・ムチュー・クルーン(カンボジア風酸味のあるスープ)】
牛肉を使い深みのあるスープに青パパイヤやピーマンなどの野菜を加え、酸味のアクセントとなるタマリンドやレモングラスの根、こぶみかんの葉を加えた酸味のあるスープ。鶏肉や鴨肉、魚を使い作られることもあります。このスープにもカンボジアの調味料「プラホック」は欠かせません。家庭料理としてもレストランにても、カンボジア人が大好きなスープです。
【アモック・トレイ(カンボジア風川魚にココナッツミルクを加えバナナの葉で蒸したもの)】
なまずや雷魚などの白身の淡水魚を使い、ココナッツミルクを加えバナナの葉で包み蒸した料理。ココナッツミルクにレモングラスやターメリック、ニンニクなどを加え、スパイシーな風味をプラス。魚の切り身にスパイスなどの味をよく馴染ませることで、魚の旨味たっぷりに蒸しあがります。赤ピーマンとこぶみかんの葉を細切りしたものを飾り、彩り鮮やかに仕上げています。
【プラホック・ティ(カンボジア風肉味噌)】
カンボジアの調味料「プラホック」に豚のひき肉を加え、カンボジアで採れる豆粒ほどの小さなナスや赤ピーマンを加え、ターメリックやレモングラス、タマリンドなどを加えて仕上げたカンボジア風肉味噌。濃厚な旨味たっぷりなので、キュウリやニンジン、ナスなどの生野菜につけながら食べると、もう止まらない美味しさです。
【カンボジア風カボチャケーキとココナッツミルクのゼリー】
カンボジアでは、デザートにカボチャを使い天然の甘さをいかした蒸しケーキをよく作ります。普段は、生のカボチャの中をくり抜いて、中にココナッツミルクを混ぜ合わせて作ったカボチャプリンを流し込んでそのまま蒸します。また、ココナッツミルクを使ったデザートも種類が豊富です。甘すぎず、ほっとする味わいは、カンボジア料理全体に共通する優しい味わいにピッタリです。
カンボジア料理は「香り」「旨味」「食感」を生かした素材を楽しむ優しい味わいの料理ばかりです。各料理の旨味のポイントとなるのはカンボジア独自の家々で受け継がれてきた調味料。中でも「プラホック」はカンボジアを流れる「川の恵み」をそのままに、川魚の旨味を発酵などにより引き出した伝統の味です。
年間を通した温暖な気候が育む豊富な食材もカンボジアならではです。近年の経済発展が目覚しいカンボジア。明るく穏やかなカンボジア国民そのままのような優しい味、ハーブたっぷりすりつぶした身体にも優しいカンボジア料理は、今後も世界から注目される料理になりそうです。
5月3日、4日には1年に1度の祭典、カンボジアフェスティバルが東京・代々木公園で行われます。カンボジアの文化や料理に興味を持たれた方は是非、実際に体験してみてはいかがでしょうか? 会場には、カンボジアの伝統料理を提供するブースも出店いたします。詳細はカンボジアフェスティバル公式ページ(http://www.cambodiafestival.com/)をご確認ください。
■カンボジアフェスティバル2017
開催日時:2017年5月3日(水)・4日(木)、10時~19時 雨天決行
開催場所:代々木公園イベント広場+野外ステージ 東京都渋谷区代々木神園町2-1
イベント概要: カンボジア料理飲食14店舗、物販35店舗、観光紹介など11店舗のほか、カンボジア伝統舞踊、カンボジアで活躍する芸能人のショー、カンボジアの写真展等
http://www.cambodiafestival.com/
取材協力・島村絵美
※掲載情報は 2017/04/28 時点のものとなります。
- 5
キュレーター情報
カンボジア王国大使館
カンボジアといえばアンコール・ワット、行ってみたい世界遺産第1位とも言われています。でもそれ以外のカンボジア、特に食に関してはあまり日本では知られていません。西はタイ、北はラオス、東はベトナムと接していて気候もよく似ていますが、食文化にはカンボジアならではの特徴があります。カンボジアの食とは何か。一言で言うとたっぷりのハーブと魚を発酵させて作った「プラホック」です。何種類もの香草を生で齧ることも地元の人たちは楽しんでいますが、石臼ですりつぶしたそれらを他の食材と混ぜて調理して風味と旨味を溶け込ませています。クメール料理はほんのり甘くて酸っぱい、そして辛くないのです。野菜、肉、魚、米、どれも素材の味を引き立てる優しい味のスローフード、のんびり大らかな国民性をよく表しています。水と緑が豊かな地で、雨と太陽の恵みが交互に来る常夏。ゆえに南国の甘くてみずみずしい果物も1年中楽しませてくれます。成長早い首都プノンペンでは、フレンチや和の食材と融合させた創作クメール料理も流行しています。古き良き伝統も、新しく洗練されたニュージェネレーションもうまく融合しているのがカンボジアなのです。ぜひご賞味を。