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地元に愛されたビールが2014年に復活
ニセコの名前は、アイヌ語の「ニセイ・コ・アン・ペツ=峡谷にある川」に由来。この川は現在「ニセコアンベツ川」と呼ばれ、その水源となるニセコ連峰は、アイヌ語で〝山〟を意味する〝ニセコアンヌプリ〟と呼ばれています。北海道の人気のリゾート地として名高いニセコ。特に冬場はその雪質の良さでスキーやスノーボードを楽しむ人たちで、国内のみならず、オーストラリアを始めとする海外観光客も多数集まる場所として有名です。
JR函館本線ニセコ駅から歩いて徒歩10分ほどの場所にあるニセコビール。元々ニセコビールという名前のビールを造る醸造所はありましたが、残念ながら5年前に閉鎖となりました。それを惜しむ人たちが、ぜひ後を継ぎたいと、様々手を挙げ、その中で、元々のニセコビールの大ファンであり、地元でデザイナーをしていた櫻井繁氏が引き継ぐことに。そして、2014年醸造免許を取得し、再スタートしたという話題のクラフトブルワリーです。
訪れたブルワリーは、一瞬、ここかな?と躊躇する佇まい。パッと見は、ごく普通の会社のような建物です。しかし、1歩入るとそこは別世界。1階にあるブルワリーは、事務所然としたスペースに醸造タンクがぎっしり配置され、そのタンク間をつなぐピンクとブルーのチューブが、まるで人体模型の動脈と静脈のように天井下に複雑に這っています。「ここは元々商工会議所でした。ブルワリーを立ち上げるにあたり、地元の商工会の協力でこの場所で営業を開始しました」と櫻井さん。2階は地元の人たちが集まるビアパブとして夕方から営業。その名も「2階」(写真・※)。こちらは1階とガラリとイメージが違い、元デザイナーの感性を生かしたおしゃれな内装で、できたてのビールを味わえます。(※2016年12月より、店名は ニセコビアレストラン「NISEKO TAP HOUSE」に変更になります)
北海道産鮭節、昆布、干し椎茸を使用したポーター
定番のビールは、山吹(ピルスナー)、残照(ペールエール)、ロゼ撫子(フルーツビール)、そして今回紹介の、蝦夷(ポーター)です。櫻井氏はビール醸造の経験がなかったために、開業にあたり、甲府のアウトサイダーブルーイングでビール醸造をする丹波智(にわさとし)氏の指導を受けました。丹羽氏は、岩手の博石館ビール(現在は終了)、いわて蔵ビール、そして現在のアウトサイダービールでヘッドブルワーとして醸造を担当し、ビール業界でもそのビール造りに定評のある人物。彼の指導を仰ぎ、独立するブルワーは全国に多数います。その丹波氏が造るマッシュルームポーターに影響を受け、この『蝦夷』は、話題の鮭節や干し椎茸、昆布(ちなみにニセコの隣駅は昆布駅)を使い、ニセコビールで一番人気のビールに仕上がりました。グラスに注ぐと、ポーターのクリーミーで細かな泡が立ち上がり、口に含むと、程よい山海の旨味と麦芽の燻し香が絡み合い、まろやかな泡とともに喉の奥へ流れ込みます。そして飲み干した後も、喉の奥に複雑で心地よい香りの余韻をゆっくりと楽しめます。このビールには、北海道のチーズはもちろん、スモークサーモンや干し魚の炙りを肴に飲むのも良さそうです。
「2階」は、毎晩、地元の人や海外から移り住んだ人たちが続々集まっています。そんな地元の方々と一緒に味わうもよし、または、ニセコ周辺のホテルのレストランなどでも楽しめます。
冬本番はこれから。朝からパウダースノーを蹴散らして思い思いのスロープを描いた後、温泉で体をじっくり温めて、心地よい気だるさとともに、ゆっくりとこのビールを味わう……。ぜひ実現したい、私の夢です!
※日本では法令上発泡酒に分類されます。
※掲載情報は 2016/11/13 時点のものとなります。
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キュレーター情報
ビアジャーナリスト/パンコーディネーター
宮原佐研子
日本パンコーディネーター協会認定パンコーディネーター、日本ビアジャーナリスト協会所属ビアジャーナリストとして日本ビアジャーナリスト協会HP、雑誌『ビール王国』(ワイン王国)、世界22カ国158本のビールを紹介するe-MOOK『ビールがわかる本』(宝島社)、ビアエンタテインメントムック誌『ビアびより』(KADOKAWA)他執筆。『ビール王国』では、「コンビニ限定うんまいビア ペア」で、コンビニエンスストアで買えるビールとパンのペアリングを連載。日本パンコーディネーター協会主催の講座「ワインよりおすすめ?パンとビールのおいしい関係」でパンとビールのペアリング体験講座も実施。