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鰹節のよさは形に表れる?!
モーツアルトを聴いて育った鰹節。そう聞くと、それで鰹節が美味しくなるの?と疑問に思われる方もいるかもしれません。先日、製造現場の見学に伺いました。「今月の曲」と白いチョークで書かれた黒板が入り口にかけられている倉庫。一歩入ると、ひんやりとした空気と一瞬外部の音が遮断されたような感覚、そして、モーツァルトが聞こえてきます。あぁ、この環境が大切なのだと思わずにはいられなくなってしまいました。
鰹節は世界で一番固いと言われている発酵食品です。鰹節カビが水分をぎりぎりまで取り除いてくれて、たんぱく質をうま味成分に変えてくれて、脂質までも分解してくれます。だからこそ、だしを引いたときに綺麗に澄んだ色とうま味を兼ね備えた液体になり、日本人に欠かせない存在となってくれるのです。
ただ、鰹節には、カビつけをしている本枯節(ほんかれぶし)と、カビつけをしていない荒節(あらぶし)とに分けられるそうで、一般に流通しているものの中で、本枯節とされるものはとても少ないのが実情のようです。
そのカビつけをした本枯節、何が大切なのですかと質問をすると、「形です」というのです。
一言に形と言っても、綺麗なシルエット、歪みや反りがない、欠けがない、凹みがないなど、たくさんの要因が積み重なっています。作業の途中にぶつけて傷をつけないことは大前提で、骨を一本一本抜いた、その穴にもすり身を塗り込んで埋めていくそうです。
いぶす時にまっすぐの形になるように細かく矯正を加えてあげます。カビをつける前段階の処理でも、水分が急に抜けてもだめだし、残りすぎてもだめ。ゆっくりじっくりと水分をなくしていくことで、カビをつけた時にささくれができにくくなるそうです。
そして、その中からカビにとってちょうど良い脂を含んだ節を見極めていきます。カビつけ後も天日に干したり、モーツァルトの流れる倉庫に入れたりを繰り返し、何度も何度も表面の表情を見ては世話をしての繰り返しで、半年ほどの時間を過ごします。これらの、一つ一つの要素を積み重ねていって、やっと綺麗な鰹節になります。
多くの工程の中で一つでも減点があると、綺麗な形にはならないわけです。つまりは、それらを全部クリアしたものが形の綺麗さとなって表れるわけで、そんな鰹節が美味しくないはずがないわけです。モーツァルトもその一つの工程の一つの要素なのだと思います。鰹節にとって少しでもよい環境をというつくり手の心意気がそこにある気がするのです。
※掲載情報は 2016/08/20 時点のものとなります。
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キュレーター情報
職人醤油 代表
高橋万太郎
1980年群馬県前橋市出身。立命館大学卒業後、(株)キーエンスにて精密光学機器の営業に従事し、2006年退職。(株)伝統デザイン工房を設立し、これまでとは180度転換した伝統産業や地域産業に身を投じる。現在は一升瓶での販売が一般的だった蔵元仕込みの醤油を100ml入りの小瓶で販売する「職人醤油」を主宰。これまでに全国の300以上の醤油蔵を訪問した。