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忙しい日常にこそ飲みたくなる優しいマケドニアワイン
いい出会いだった。僕が主催しているワイン会の常連の1人であるフランス出身の男子。2015年の年越し会にワインを片手に参加。「友人が輸入しているワインなんです」と紹介してくれたのが、マケドニアのワインだった。マケドニアは、タイトルでもふれたとおり、歴史の大人物、アレクサンダー大王の故郷。と書いたけれどそれ以上のことは、よく知らなかった。サッカー好きなので、欧州選手権やワールドカップの欧州予選では目にしたがその程度で、日本からすればワインの世界でも有名というわけではない。場所をおさらいするとバルカン半島、旧ユーゴスラビアを構成するエリアのひとつで、南にギリシャ、東にブルガリア、西、北西は旧ユーゴスラビアの国々やアルバニアなどに囲まれた内陸国。面積は例えれば新潟県と長野県をあわせたぐらいだけど、ほとんどが山地ということで国内の移動時間はかなりかかるという国土。なかなか日本との接点は少ない国だ。この国の出身である男子と、その友人の世界で暮らしてきたアメリカ男子に、日本の友人、その3人(カバー写真の彼ら)がチームを組んでマケドニアワインを輸入していると聞いて、早速テイスティングをお願いした。「本当はカリフォルニアワインを輸入しようとしていたんですが、現地でワイナリーを回っていたらマケドニアワインの魅力が素晴らしくて……」、「マケドニアが日本では知られていないことは承知しています。大使館も最近できたばかりですし。ワインを通じてマケドニアという国を知っていただけたら嬉しいですね」という彼らの言葉を聞き、テイスティングに入った。
この日は2つのワイナリーから11アイテムをテイスティング。ひとつは、「ボヴィンワイナリー」。世界各国のマケドニア大使館で御用達になっているとのこと。まずはシグネチャーというか、やはり、かの大王の名を冠した「アレクサンダー」から。メルロ、カベルネ・ソーヴィニヨンに地品種であるヴラネックというぶどうをブレンド。ゆったりとおおらか。それがきれいな酸に守られて際限なく輪郭なく広がっていくのではなく、ちゃんと体の中に入っていた後に風味がふわっと広がってくれる。アレクサンダーという名前からなにやら勇壮で壮大な味や香りを想像していたのだけれど、どちらかというと戦士の休息。気持ちが安らぐワインで、14.5%という高いアルコール度数をアタックでは感じさせない。続いては「メルロ」。これも刺激よりも奥深さときらめき。妙なスパイス感はなく、夕焼けのススキがたなびく高原で1人たたずむ青年を想像するようなセンチメンタルな表情と飲み口。圧倒的なパワーで攻め立ててくるのではなく、これもあとからじわじわと体の中にエネルギーが沸いてくる感覚。「アレクサンダー」も「メルロ」も、ふっとこぼれた吐息きは爽やか。プレスティージュクラスの「インペラトル」や「ディサン・バリック」も、強くて優しいのではなく、優しくて強い。苦味や酸味が苦手という人にとっては、とてもありがたく、しかし重厚感がなければ……という人にも満足がいくワインだろう。
続いては、「ポポヴァ クラ ワイナリー」。こちらは白ワインを中心に楽しんだが、爽やかなアロマと飲み口ながらゆったりして、長く、長く続く余韻に浸れる「ジラフカ」(ジラフカはマケドニアの貴重な古代品種)、ライチやドラゴンフルーツといったチャイニーズトロピカルフルーツの甘いジュースがキラキラしたアロマと、とろっとした飲み口に、そこから現れるバジルやローズマリーのようなグリーンハーブの余韻が楽しい「テムヤニカ」。さらにワイン版レモンチェッロともいうべきテイストの古来種「スタヌシナブラン」のきらめきと豊かな土と風から生まれたことを感じさせる深み。
高度に近代化されていないけれど、決して風化しているわけではない、ちょうどよいローカル感とちょうどよい時代感。ゆるやかさと美しさの両立。シンプルなハードタイプのチーズや、カッテージチーズを使ったシンプルで酸味のあるサラダ、肉なら薄切りのポークソテーにパプリカソース、飾らない料理がむしろ豊かな時間のためのパートナー。ワインでは世界最古のいくつかの国の中に数えられる、いにしえの伝統国。急ぎすぎる毎日の中で、深夜の仕事終わりにでも、休日の夕方にでも。そっと優しく寄り添いながらも、明日へのパワーをじわじわとくれるような感覚。下心のあるときに登場するワインではなく、仲間同士でも、1人の時間を大切にしながらでも。どうぞ、肩の力を抜いて楽しんでください。
※掲載情報は 2016/02/09 時点のものとなります。
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キュレーター情報
ワインナビゲーター
岩瀬大二
MC/ライター/コンサルタントなど様々な視点・役割から、ワイン、シャンパーニュ、ハードリカーなどの魅力を伝え、広げる「ワインナビゲーター」。ワインに限らず、日本酒、焼酎、ビールなども含めた「お酒をめぐるストーリーづくり」「お酒を楽しむ場づくり」が得意分野。
フランス・シャンパーニュ騎士団 オフィシエ。
シャンパーニュ専門WEBマガジン『シュワリスタ・ラウンジ』編集長。
日本ワイン専門WEBマガジン「vinetree MAGAZINE」企画・執筆
(https://magazine.vinetree.jp/)ワイン専門誌「WINE WHAT!?」特集企画・ワインセレクト・執筆。
飲食店向けワインセレクト、コンサルティング、個人向けワイン・セレクトサービス。
ワイン学校『アカデミー・デュ・ヴァン』講師。
プライベートサロン『Verde(ヴェルデ)』でのユニークなワイン会運営。
anan×本格焼酎・泡盛NIGHT/シュワリスタ・ラウンジ読者交流パーティなど各種ワインイベント/ /豊洲パエリア/フィエスタ・デ・エスパーニャなどお酒と笑顔をつなげるイベントの企画・MC実績多数。