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旅の居心地を変えてくれるコーヒーショップ
旅先にお気に入りのお店があるっていいですよね。取材で繰り返し訪れるコペンハーゲンやストックホルム、オスロ、ヘルシンキの街にはそれぞれお気に入りのカフェがあって、そのおかげで滞在が心地よくなっています。お店の人と顔なじみになったり、そうでなくてもひと言ふた言話したり。北欧のカフェって、ただコーヒーを飲むだけでなく、ちょっとした会話を楽しんだり、人と交流したりする場所なんです。こんなカフェが地元にもあったらいいなあと思うし、旅先の知らない土地でこういうほっとできる場所があるっていいなあとも思う。最近ではお気に入りのカフェを基準に宿探しをすることもあります。
北欧でカフェのある旅に慣れて以来、日本国内を旅する時も真っ先にその土地のカフェやコーヒーショップを調べるようになりました。名古屋へ行く時に必ず立ち寄るのがTRUNK COFFEE。最近ではトランクコーヒーの近くで宿を取るようになり、朝の1杯はもちろん時間が空くととりあえず立ち寄って、名古屋滞在の拠点にしています。
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トランクコーヒーのオーナーバリスタ、鈴木康夫さん(以下、康夫くん)はコペンハーゲンでバリスタ修行をした後、オスロのコーヒーショップ『FUGLEN』の東京店の立ち上げから関わり、看板バリスタとなった人。その後、地元の名古屋に戻って2014年にトランクコーヒーをオープンしました。
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フグレン時代から交流してきた康夫くんとの、忘れられないエピソードがあります。新宿伊勢丹で開催された数年前の北欧展でのこと。私はワークショップや自身の北欧ビンテージ店の出店を担当し、康夫くんはフグレン出店の担当者として連日顔を合わせていました。デパートでの出店もトークイベントも初めてですっかり緊張していた私をつかまえて康夫くんは、「そんなに慌てなくて平気ですよ〜、だって北欧展ですよ。もっと北欧らしくいきましょうよ〜」と声をかけてくれたのでした。「北欧らしくいきましょうよ〜」なんて言葉がこんなに似合って、しかも説得力のある人、他にいません。あの人懐っこい笑顔で「北欧らしくいきましょうよ〜」と言われたら、緊張なんて吹っ飛びます。
そうなんです。北欧というとデザインとか素敵な部屋とか充実した福祉とか世界一の教育なんかが取り上げられますが、「ゆるい、がんばりすぎない」っていうのも北欧の魅力なんです。ゆるいというのはダラダラしていることではなくて、適度な余白があるということ。ギチギチに詰めて考え過ぎない。それが心地よさにつながっているんですね。思えばあの北欧カフェの心地よさって、そんなゆるさが理由なのかもしれません。バリスタや空間にちょっとした隙がないと、リラックスできないんですよね。
いまや空前の北欧ブームでいろいろな雑誌やショップに「北欧」の文字が踊っていますが時折ふと「北欧らしさ」って何だろうなあと思います。北欧の物を置いていれば北欧らしいのか?店の前にとりあえず北欧の人を立たせておけば北欧らしい店になるのか?日本人は一体、北欧に何を求めているのか?と時折マジメに考えたりするのですが、そんな時にいつも頭によみがえるのが、あの康夫くんの「北欧らしくいきましょうよ〜」なのです。
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コーヒーとはとことんマジメに向き合いつつも、お客さんと話したり交流したりするのが大好きな康夫くんが作ったトランクコーヒーは、もしかしたら日本で一番「北欧らしい」場所かもしれないと私は思っています。適度にゆるくて、ひとりひとりに居場所を作ってくれる店。オープン以来、店の運営に加えて日本全国のコーヒーイベントに顔を出し、「これで飲むのが一番おいしいです」と自らきっぱり言い切れるコーヒーカップやドリッパーを開発してはメディアに取り上げられ、バリバリとコーヒー活動を展開しながらも程よいゆるさをキープできている。やっぱり北欧仕込みのゆるさは質が違うなあ、なんて思ってしまいます。
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前回訪れた時には店先にクリスチャニアバイクが置いてあってびっくり。コペンハーゲンで生まれたクリスチャニアバイクは大きな荷物や子どもも乗せられるエコな移動手段としてデンマーク人に愛されています。かっこいいのですが決して安いものではないですし、実際に荷物を乗せて長距離を走るとなると、かなり体力も必要なのでただのファッションではなかなか使いこなせません。トランクではこれでコーヒー豆の配達をしています。一度お店に向かう途中で、この大きなバイクが高速の下の名古屋の大通りを豪速で走っているところをすれ違ったのですが、車通りの多い道を颯爽と駆け抜けていくクリスチャニアバイクの痛快なこと。
よくコーヒーでライフスタイルを変えていきたい、なんて掲げているおしゃれなコーヒーショップがありますが、トランクは自分たちが率先してライフスタイルを変えて楽しんでいる。日本で一番クリスチャニアバイクの似合う店、トランクコーヒー。肚が据わっている。
店内インテリアのバランスも絶妙です。ブロック塀をそのまま残していたり、ごちゃっと物が置かれた部分もあったりするけれどそういうのも含めて絵になる。北欧ビンテージ家具や食器もふんだんに置いてあるけれど嫌味にならない。いつまでも居座りたくなる雰囲気だけれど、外に向かってオープンに開かれているのもいい。これこれ、これが北欧インテリア!って叫びたくなります。
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昨年末には満を持してコーヒービールを発表。志賀高原ビールとのコラボでDRUNK COFFEEが誕生しました。コーヒービールというと、コクや甘みがあっていわゆるコーヒーらしさを感じさせるダークな味が多いのですが、DRUNK COFFEEはそのイメージを覆す味。ゴールデンエールでさっぱり爽やか。使用しているコーヒー豆はニカラグアのリモンショで、以前お店でコーヒーを飲ませてもらったのですが、ジューシー!フルーツのような酸味!そんな個性的な味がよく活かされたコーヒービールもまたぐいぐい飲める味。スペシャルティコーヒーを飲んだ時に「え、これがコーヒー?」と驚くように「え、これがコーヒービール!?」と嬉しい驚きがありました。東京のビアバーや全国の酒屋さんに出荷され、あっという間に完売してしまいましたが、トランクコーヒーでは今も飲めるようです。今後は豆の種類を変えて第二弾、第三弾と続けていくとのことで楽しみです。
トランクコーヒーの通販サイトではコーヒービールに使われたリモンショの豆、トランクオリジナルの人気ドリッパー『ORIGAMI』やカラフルなコーヒーカップも買えます。日本で一番、北欧らしいコーヒーショップ、トランクコーヒー。ぜひチェックしてみてください。
※掲載情報は 2016/01/29 時点のものとなります。
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キュレーター情報
コピーライター・北欧BOOK代表
森百合子
コピーライター。北欧BOOK代表。著書に『北欧のおいしい話』『コーヒーとパン好きのための北欧ガイド』『3日でまわる北欧』シリーズ(スペースシャワーネットワーク)、『北欧レトロをめぐる21のストーリー』(主婦の友社)など。フィンランドやスウェーデン大使館との仕事を通じて北欧の暮らしや文化への知識を広げ、執筆の他、監修、トークショーなど幅広く活動。定期的に北欧諸国を訪れて取材を重ね、食やコーヒー文化、ビンテージの生活道具などユニークな切り口で北欧の魅力を紹介している。東京・田園調布で北欧ビンテージ雑貨の店『Sticka スティッカ』も運営。http://hokuobook.com