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スペインの友人がチーズやカラスミに続いて始めた新しい仕事
ざっと15年前、まだサラリーマンだった私は、日本で流通するブランドにそのブランドの実力に合わせて偏差値を付けて評価するというプロジェクトに打ち込んでいた。その私の職場でEUの日本企業研修プログラムの研修生を受け入れることになった。それがスペインから来たヴィクトールとの出会いだった。ヴィクトールはスペインのIT企業に勤めていて、私たちのブランドやWebサイトの評価の実務を学んで行ったのだけれども、彼の元々の専門は食品マネジメントだということがわかって、食ビジネスへの関心が私と共通だったので親しくいろいろなことを話すようになった。翌年、私たちはそれぞれ会社を辞めて独立した、そのシンパシーもある。
その後ヴィクトールはカナリア諸島に家を建て、チーズやカラスミ(実はスペインの名産の一つ)を商う一方、情報網の広さからテレビ番組の制作にも携わるようになった。そのヴィクトールから去年「見せたいものがあるから連絡をくれ」というメールをもらったのだけれど、たまたまとても忙しい最中だったので返事を書くのが後回しになり、気が付けば1年が過ぎていた。ごめんね、ヴィクトール。ところが先日、たまたまテレビを見ていたら、ヴィクトール一家を紹介する番組が始まってびっくり。矢も楯もたまらず「見たよ!」とメールを送った。でも返事は来ず。やっぱり怒ってるよねと思っていたら、先日、奥さん(日本人です)から連絡があった。
ブランデーのように造る意欲的な材料と製法のジン
ヴィクトールは仲間2人と蒸留所を作り、ウォッカやジンを造り始めたとのこと。そのジンの1本をいただいた。穀物ではなくブドウから造った蒸留酒を使い、樽熟成もするというちょっと珍しいタイプ。さっそく一杯。樽熟成で少し色付いた様子から、つまりブランデーだよねと思いながら口に含んでみたけれど、いや、実際ジュニパーベリーのしっかり効いた紛れもないジンでした。しかも、かなりドライな割に不思議なほどスムーズなので、これは飲み過ぎに注意! 原材料や熟成方法にチャレンジがあって、しかし定番の味をぶち壊すことはなく、でもやっぱりオリジナルな味。食の世界とブランド作りの妙を知るヴィクトールのセンスを感じた。やるじゃん!
ヴィクトールと仲間、彼らはITなどサービス業でやって来た三人衆なんだけれど、形のあるものを作る仕事をしたいねということでこのプロジェクトは始まったという。ボトルにはその3人の好きなものや家族にまつわる絵がちりばめられていて、彼らが楽しんでいる様子が伝わって来る。ヨーロッパには小規模な蒸留所がたくさんあって、自家用に近い形でスピリッツを作る文化があると聞くけれど、その手作りの雰囲気と、カチッとした管理の行き届いた品質感の両方を感じる。ヴィクトール、いいことを始めたね。おくればせながら本当におめでとう。ぜひこれを日本に輸出する道筋をつけてほしいな。君のことだから、そこはもう考えているだろうけれど。
※掲載情報は 2015/07/29 時点のものとなります。
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キュレーター情報
FoodWatchJapan 編集長
齋藤訓之
北海道函館市生まれ。1988年中央大学文学部卒業。レストランビジネスを志していたはずが、レストランビジネスに役立つ本を作る仕事にのめり込む。柴田書店「月刊食堂」編集者、日経BP社「日経レストラン」記者、日経BPコンサルティングのブランド評価プロジェクト「ブランド・ジャパン」プロジェクト責任者、農業技術通信社「農業経営者」副編集長等を経て、フリーランスのライター・編集者として独立。2010年10月株式会社香雪社を設立し、農業・食品・外食にたずさわるプロ向けの情報サイト「Food Watch Japan」をスタート。著書に「入門 日本の七十二侯と旬の食」(洋泉社)、「食品業界のしくみ」「外食業界のしくみ」(ともにナツメ社)、「農業成功マニュアル―『農家になる!』夢を現実に」(翔泳社)、「創発する営業」(共著、丸善出版)、「創発するマーケティング」(共著、日経BPコンサルティング)など。