【クローズアップ】サービス業の未来を担うネクスト・リーダーを育てたい 佐野由美子

【クローズアップ】サービス業の未来を担うネクスト・リーダーを育てたい 佐野由美子

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おもてなしマエストロ

佐野由美子

 

小さな頃から家族や友人など、誰かを喜ばせることが好きだったという佐野さん。20代半ばでサービスの世界へと飛び込み、レストランの現場で叩き上げた経験をもとに、プロの接客やサービスについての講演やセミナー講師としても活躍中です。佐野さんが立ち上げから関わり来年で20周年を迎える銀座「赤坂璃宮」にて、今のお仕事について、日頃大切にしていることや、サービス・おもてなしの本質について教えていただきました。

 

「お客様に喜んでもらいたい」とサービスの世界へ飛び込み20年

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Q:「おもてなしマエストロ」として、どのようなことをなさっていますか?

 

佐野さん:日本では今「おもてなし」という言葉がクローズアップされていますが、これからサービスの世界で頑張ろうとしている人たちを育てていくことが「おもてなしマエストロ」の役目です。第1期認定講師の一員として認定を受けたのは昨年のことですが、サービスに携わってきた20年間という経験があり、10年前から各地でセミナーや講演、レストラン立ち上げのお手伝いをしてきましたので、そのような意味では「おもてなしマエストロ」の活動そのものは以前から続けてきたということになりますね。

 

Q:通常は「赤坂璃宮」の取締役営業本部長として銀座に勤務されていますが、ここではどのようなお仕事をされていますか?

 

佐野さん:1996年に、オーナーシェフとして初めてお店を持つことになった譚彦彬シェフから声をかけていただきました。シェフはお料理を、私はお客様周りのこと全般を担って、二人三脚で「赤坂璃宮」をスタートしました。おかげさまで来年で20周年になりますが、当初はお店をなんとか軌道に乗せるために、接客だけではなく営業活動や広報活動など、いろんなことをさせていただきました。今は、経営陣の1人として「赤坂璃宮」のブランドを高め、お客様にもっと喜んでいただくためにはどうすればいいか、という部分で動いています。企画、プロモーション、業界との連携のように対外的な活動も幅広く行っていますが、やはり一番大切にしているのはスタッフを育てるということです。スタッフは仲間でありファミリーの一員ですから、この仕事を好きになってくれて、「赤坂璃宮」を良い店にしたいという気持ちになってくれるよう、みんなを束ねていきたいと思っています。

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Q:「赤坂璃宮」は来年で20周年ということですが、今までどんなことが思い出に残っていますか?

 

佐野さん:レストランの経営に携わっていると、毎日が今、目の前にいらっしゃるお客様のことで頭がいっぱい。お客様に対してここまでやればOKというゴールはなく、常によりよいサービスやおもてなしを追求する日々の中で、達成感だとか成功感というものを実感することはほとんどありません。でも、日頃お世話になっているお客様をお招きしたパーティを1周年、3周年と節目ごとに開催していて、それまでの日々を振り返る機会になっています。今も忘れられないくらい感激したのは5周年パーティの時。なんとかしてお客様に感謝を伝え、喜んでいただこうと毎回心を砕いて準備をしますが、無事パーティも終わり、いざお客様をお見送りするという時に、何人かの方が、後ろからそっと花束やプレゼントを出して「お疲れさん」とか「いつもありがとう」という言葉をかけてくださったんですね。10周年の時には「佐野さんに殊勲賞をあげよう」、「頑張れよ!」、「店を続けてくれてありがとう」と大勢の方が声をかけてくださって。裏方の私にもそのように言葉をかけてくださり、見てくださっている方がいるんだと、とても嬉しく思いました。周年記念パーティの日は、なぜか自宅のある茅ヶ崎に帰るまでに毎回大泣きしてしまうんです。普段は気を張って目の前のお客様に集中していることもあって、どれだけ大勢のお客様に助けられているのかということを、こういった節目の時に改めて実感するんですね。

気持ちのよいサービスやおもてなしは、誰もが伸ばせるスキルの一つ

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Q:お店での接客やおもてなしをする上で、大切にしているのはどんなことでしょう?

 

佐野さん:私がいつも目指しているサービスやおもてなしというものは、出会った方たちに幸せな気持ちになっていただく、ということなんですね。その方の人生まで変えて幸せになっていただくのは難しくても、お店で幸せな時間を過ごして元気になっていただくのは、接客のプロである私たちにできるとことだと思っています。レストランの接客の現場では、お客様によいおもてなしをして、よい時間を過ごしていただくために、スタッフがチームで取り組む必要があります。そのような意味でも、やはり大切なのは「人」なんですね。働く仲間たちのモチベーションを上げるために、数々の失敗とともに経験を積んできた先輩として、今私にできることは何かをいつも考えています。

 

Q:一番大切なのは「人」とのことですが、佐野さんご自身どのような経験によって、そう考えるようになりましたか?

 

佐野さん:私は大学卒業後、OLとして働いていましたが、20代の半ばに飲食業界へ転身しました。そして20代の終わり頃に、あるレストランの店長を任される機会がありました。とても光栄なことで、やる気満々で朝から晩まで休みも取らずに毎日一生懸命お仕事をさせていただきました。でもその頃の私は結局のところ、自分1人で頑張っていたに過ぎなかったんです。別の言い方をすると、会社の期待に応えようと思って、大きな売上数字を作るために無我夢中で頑張っていました。でも、ふと後ろを向いたら、スタッフが誰もついてきていなかったんです。さらに恥ずかしいことに、1年で2度も入院してしまうほど身体を壊してしまいました。あの頃はビジネスとしてのサービスやおもてなしというものは、チームでやるものだということを全く理解していなかったんですね。むしろ、人の上に立つ人間というのは、みんなを引っ張り、信じて任せて、自信を持たせて、この仕事を好きになってもらえるように育てていくのが仕事なんだと、その経験から学びました。この時が私のターニングポイントです。20代の終わりにこのことに気がつくことができたのは、ありがたいことだと思っています。

 

Q:これまで全国350ヶ所を超えるほどの講演や、セミナー講師としての活動をされてきた中で、どのようなことが印象に残っていますか?

 

佐野さん:飲食業に携わる方たちに、現場の人間として実践的なサービスやおもてなしがテーマの講演・セミナーをすることもありますが、それよりも多いのが経営者・店長・リーダーといった方たちが集まるビジネス系のセミナーなんですよ。そこで感じるのは、どんな業種・業態であっても、どんな立場の方でも、人材育成や集客、接客、気持ちのよいおもてなしをもっと高めたいと思っているのは同じだということ。それと、お客様に対する笑顔や気持ちのよい応対というものは、スタッフ個人の人柄や持って生まれた天性によるものだと考えている方が多いですね。でもそうではなくて、サービスや気持ちのよいおもてなしというものは、どんな人であってもきちんと教育すれば、必ず伸ばすことができるスキルです。お客様に対する笑顔や所作ひとつにしても、そこに至るまで目に見えないトレーニングの積み重ねがあってこそです。それをせずに、いくら笑顔や優しい心遣いをさせようとしても無理な話です。基本マナーや姿かたちが身につくようになれば、そこにマインドという芯の部分がしっかりついてきて、笑顔や優しい心遣いなどが自然と備わっていくものです。そこに必要なのは訓練です。きちんとした教育をすれば、そのスキルは非常に大切な経営資源となり、利益追求につながるのだとお伝えしています。

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Q:講演やセミナーに参加した方たちの変化を感じる機会はありますか?

 

佐野さん:私にご依頼いただくということは、私がマナー講師としてではなく、滑ったり転んだりしながらも現場で同じように頑張ってきた経験者だからこそ、という理由があるのだと思っています。講演やセミナーに参加した方たちの変化をその場で目の当たりにするというよりも、後で自宅に帰ると参加者の方からお礼のメールが届いていたり、お手紙を送ってくださったりされる方がたくさんいらっしゃいます。一番嬉しいのは「この仕事を辞めようと思っていたけれど、もう一度頑張ってみようと思った」とか、「お客様と接するということは、自分次第なんだと気付いた」というような生の感想です。嬉しいですし、逆に勇気をいただいています。私のことを現場の仲間として、このような言葉を送ってくださるのだと思います。本来は私も自分の店をあまり不在にしない方が良いとは思うのですが、こうして各地で頑張っている方に自分の経験が少しでも役に立つのであれば本望ですね。私自身「先生」になったつもりはなく、同じ現場の人間としてお話をさせていただくので、最後には必ず「私も頑張りますので、みなさんも一緒に明日からまた頑張りましょう」と言っています。

 

Q:2020年の東京オリンピック開催が決まったことで、講演やセミナー依頼にも変化はありますか?

 

佐野さん:はい、あります。オリンピックの開催が決まった直後から、全国各地の市町村や商店街などから次々と依頼がくるようになりました。プロの接客や集客、おもてなしというものを、基本的なマナーから今一度見直そうという動きがあるように思います。現場のスタッフだけではなく店長や経営者の方も自ら参加するケースも少なくありません。もしかしたら、日本のおもてなしが世界から「ジャパンブランド」として評価されているのに対し、おもてなしという言葉が独り歩きしているところがあって、サービスの現場においては実際のところ、ホスピタリティ環境を整えることや、人材育成に自信が持てずにいるお店や地域が多いのかも知れません。

おもてなしとは日頃の準備に始まり、準備で終わるもの

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Q:「ippin」のキュレーターとして紹介する商品を、「おもてなしマエストロ」としてどのような観点で選んでいますか?

 

佐野さん:私は仕事柄、お客様を訪ねる時に手土産を用意する機会が多く、そういったビジネスのシーンに相応しい品物という観点でご紹介しています。特にビジネスリーダーの方たちは手土産を持参することも、いただくことも日常茶飯事。そんな中で日頃からアンテナを張って早めに準備しておけば、ありきたりではなくて気持ちの伝わる手土産になります。手土産や贈り物というものは、本来その方のことを思って、その方のために選ぶものですので、シーンに相応しいかさ張らないものや、外国の方であれば日本らしいもの、地方の方なら東京にしかないものを選ぶというのもスマートだと思います。

 

Q:「ippin」の読者ニーズが高いテーマのひとつに「ホームパーティでのおもてなし」があります。自宅に人を招いてホームパーティをする際の、成功のポイントを教えていただけますか?

 

佐野さん:ホスト役がバタバタと動き回っている状態では、招かれた方もなかなか落ち着かないものです。忙しい日々を送っている中だとは思いますが、ホームパーティ当日は最初から自分も一緒に楽しむつもりで、早め早めに準備を進めておくことが大切です。ゲストの中には初めてお会いする方もいると思うので、そのような方に早く打ち解けていただくためにも、当日はできるだけ余裕を持って過ごせるように心がけてみてください。また、来てくれた方には帰りにちょっとしたお土産を渡すと、とても喜ばれます。気持ちに余裕があれば、いろいろとできます。おもてなしというのは、準備に始まり準備に終わるものだと思っています。

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【プロフィール】

有限会社カメリアエンタープライズ 代表取締役。FCAJ(日本フードコーディネーター協会)理事。明治大学(短大)卒業後、OL生活を経て、20代後半からレストラン業に転身。自ら現場でのサービス経験、店長業務を積んだ後、本格的な接客サポートビジネスをスタート。「ホスピタリティ教育」一筋に20年以上の実績を持つ。おもてなしマエストロの認定を受けて、マナー講師としても活動中。ホスピタリティに関するコラム等を多数執筆しているほか、「プロの接客」などをテーマとした講演は、これまで全国で350ヶ所以上。女子栄養大学(短期大学部)および湘北短期大学でフードビジネスの講義を担当。一方で、18年前から「赤坂璃宮」の開業・経営に従事し、取締役営業本部長を兼務。趣味は中国茶とお酒。

※掲載情報は 2015/07/03 時点のものとなります。

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