【クローズアップ】「手間ひま」こそがブランド力につながる。内田勝規

【クローズアップ】「手間ひま」こそがブランド力につながる。内田勝規

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株式会社オフィス内田 会長 内田勝規さん

東武百貨店のカリスマバイヤーとして、百貨店業界にその名を轟かせた内田勝規さん。北海道物産展で「生キャラメル」や「牛乳プリン」がブレイクするきっかけを作った立役者としても知られています。現在はご自身で立ち上げた株式会社オフィス内田の会長として、海外物産展の企画やテレビ出演など活躍の場をさらに広げている内田さんに、日々大切にしている信条や魅力ある地方商品への想いを語っていただきました。

「非日常」という消費者の期待にどこまで応えられるか。

【クローズアップ】「手間ひま」こそがブランド力につながる。内田勝規

Q:百貨店における「バイヤー」とは、どんなお仕事なのですか?

内田さん:物産展をはじめとする催事全般の企画や商品計画、売上管理などが主な仕事です。東武百貨店では年間約130本の催事をこなしていました。また、他店との差別化を図るため、新規商品の開拓にも力を注ぎました。バイヤーと聞くと、buying=買い付ける人を想像するかもしれませんが、これらの仕事はMerchandising (マーチャンダイジング)なので、マーチャンダイザーと呼ばれています。

Q:百貨店とスーパーなど他の店とでは、どのようなところに違いがあるのでしょうか?

内田さん:商品よりも、買いに来るお客様の目的や意識に違いがあります。お客様はデイリーの買い物とは違う「非日常的な物」を買い求めに百貨店を訪れる。そのような期待をしっかり受け止められるかどうかが「百貨店らしさ」なのだと思います。

例えば、北海道物産展は今やあらゆる百貨店やスーパーで開催されていますが、そんな中で百貨店らしい商品は何だろうと考えて、2011年に1個1万2000円の「本格ステーキ弁当」という商品を作ったんです。震災後ということもあり、百貨店業界全体の売上が落ち込んでいる時期でした。お客さんの数は減っているけれど、売上を確保するには単価を上げるしかない。本当に良いものであれば、値段が高くても欲しいと思ってくれる人はいるはず。そう考えて販売に踏み切ったところ、飛ぶように売れました。現在は値段を見直し、東武百貨店の北海道物産展には欠かせない定番商品となっています。

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Q:なぜ百貨店の物産展には人が集まるのでしょうか?

内田さん:まず、衣食住の中でも「食」という、人が生きていく上で絶対に欠かせないものを取り扱っていることが挙げられます。さらに、食に関しては「普段と違うものを食べてみたい」というメリハリを求める消費者心理があるのではないでしょうか。だから物産品のキーワードは「今だけ・ここだけ・あなただけ」。今しか買えない物、現地に行かなければ買えない物が手に入るという魅力が、多くの人を惹きつけているのだと思います。また、「テレビに出たあの商品を買いたい」という宣伝効果もあると思いますね。

Q:人気商品にはどのような共通点がありますか?

内田さん:なかなか手に入らない物、新商品、そして時代のニーズを得ている物。そして“らしさ”がキーワードですね。例えば北海道の「生キャラメル」や「牛乳プリン」には“北海道のスイーツらしさ”があります。それは何だと思いますか? 北海道のスイーツにはどれも「柔らかい」という共通点があるんです。なめらか、とろける、雪どけの食感などね。このように、何か切り口を見つけて商品を探すように心がけています。

「新潟の酒がなぜ旨いか知っているか?」——八海山の会長との出会い

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Q:内田さんは、実際に現地へ足を運んで商品を選ぶことを大切になさっていますが、何かきっかけがあったのでしょうか?

内田さん:ありましたね。とても大きな経験をしました。私が東武百貨店で催事の担当になり、最初に担当したのが新潟の物産展でした。生まれて初めて受け持つ物産展で上司に言われたのは「絶対に売れる物を持って来い」という一言。新潟と言えば海の幸、米、そして日本酒は絶対に外せません。そこで私は、日本酒の「八海山」に目を付けました。

当時、「八海山」は非常に入手困難と言われていた人気のお酒ですが、私には何のコネクションもありません。どんな手を使ってでも欲しいと考えた私は、とある金融関係の方に同行をお願いして八海山の本社に乗り込みました。当時の八海山の会長は、その方の顔を見るやいなや表情が変わり、商談は無事成立。ところが「明日、1人でもう一度来るように」と言われたんです。そして翌日、私が1人で伺うと、会長は昨日とは打って変わって私を怒鳴りつけました。「人の弱みに付け込むとはどういうことだ!」と。一時間ほど怒られたでしょうか。やがて会長は「ところでお前、うちの酒はそんなに旨いのか?」と私に尋ねました。実は、私はアルコールが飲めません。正直に「一度も飲んだことはありません」と答えると、「だったら今夜は家に飲みに来い」と言われて。会長の家では案の定、一晩中お酒を飲まされました。苦手なのを無理矢理口にしているので味のことなんかわかりません。そんな中、会長と奥様が障子の向こうで大げんかを始めたんです。どうやら奥様は会長の体を非常に心配している様子。聞こえてくる内容からわかったのは、会長は肝臓が悪くお酒を飲めるような体ではないということ。私に飲ませるために無理をしてくれていたんです。

東京に帰り、物産展のチラシやポスターを作る時期になりました。どんなビジュアルにしようかと悩んだ結果、「八海山」の一升瓶1本を写真に撮って「これぞ新潟展」というタイトルを付けました。最初のゲラ(確認用の原稿)が出来上がった時、会長に見てもらおうと新潟へ持って行きました。会長はそれを見るなり「かあちゃん、かあちゃん!こんないいものを作ってくれたよ」と奥様を呼んでこう言ったんです。「今晩は内田が家に泊まるらしいぞ」と。もう泣いちゃおうかと思うくらい嬉しかったですね。その夜はいろんなことを教えていただきました。例えば、当時新潟はナスの生産量が全国2位なのに対し、出荷量(流通量)では全国7位ということ。新潟では、美味しいものは地元で食べられているんですね。物産展に出すということは、全国の人に知られることになりますが、作り手の数には限りがあります。だからこそ、作り手の思いを大切にしなければならないということを、肝に命じました。

この話にはまだ続きがあります。その後、北海道物産展で大成功を収めて有頂天になり、八海山の会長のことも忘れかけていた頃に、会長がお亡くなりになったという知らせを受けました。お葬式に参列しようと新潟へ向かうと、浦佐駅には訃報を知った何万人という人が集まっていました。あまりにもすごい人数だったので、私は日を改めることにしました。後日ご自宅へ伺うと、私のことを覚えてくださっていた奥様が仏間へ通してくれました。その時私が見たのは、仏壇の横に貼られている「これぞ新潟」のポスターです。この時ほど、人と人とのつながりの大きさを感じたことはありません。

生前、八海山の会長に「新潟はなぜ酒が美味しいか知っているか?」と聞かれたことがあります。私が「わかりません」と答えると、「お前は本当に何も知らないな」と言いながらも「新潟は冬に積もる深い雪が、余計な雑菌をみんな吸収してくれるからだ」と教えてくれました。

百貨店は物を作れるわけではなく、生産者あっての商売です。生産者が良い物を作ったら、消費者にちゃんと紹介して売っていかなければ。そのためには、現地を回って生産者の気持ちを勉強させていただく。商品のことを一番よく知っているのは、その作り手。私が今も生産者を一軒一軒回っていろんなことを教えてもらうのは、こんな経験があったからです。

地域に眠る「魅力ある商品」を求めて

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Q:実際に商品を選ぶ時に心がけているのはどんなことですか?

内田さん:消費者目線です。お客様の代わりに良い物を探しに行く、という気持ちですね。「この商品を買って帰ったら、きっと家族が喜ぶだろうな」とか「この商品をお客様に見せたら喜んでくれるだろうな」ということを常に考えながら商品を選んでいます。

Q:魅力的な商品であるにもかかわらず、ヒットに結びつかなかった商品はありますか?

内田さん:北海道の「スープカレー」です。今でこそみなさんご存知だと思いますが、私が物産展で売ろうとしたのは14年くらい前。札幌では流行っていましたが全国的にはまだまだ。時期が早すぎたのだと思います。やはり、新しい物を探し出すことも大切ですが、早ければいいという話でもありません。お客様たちの間で「あれが欲しい」という気持ちの盛り上がりを見極める必要がありますね。

Q: 内田さんは全国各地の物産展に携わった経験をお持ちですが、どんな地域でも成功することは可能でしょうか?

内田さん:北海道の物産展の次に成功したのは奄美大島(鹿児島)の物産展です。第1回目は、沖縄の物産展をやめて奄美大島をやるという、大きなチャレンジでもありました。2009年の7月29日に奄美で60年に一度の皆既日食が見られることをネタに、「今やらないと60年後までできない」と生産者を説得しました(笑)。売上的に成功したとは言えませんでしたが、その経験で生産者の心に火が付いたんですね。特産品の「黒糖」を使って付加価値のある加工品を作ろうと生まれたのが「黒糖ロールケーキ」です。何度も勉強会と試作を重ねて完成しましたが、これが当たり、4年後には沖縄展の売り上げを越す物産展へと成長しました。

今は物産展以外にも、ネット通販など生産者にとって様々な販路があります。ネット通販では「売れる」ことしかわかりませんが、物産展には「売れない」も目に見えるという特徴があります。そして「物産展で売れずに恥をかく」という経験が一番勉強になるんです。売れないと「なぜ売れなかったのか」を考えて売るための工夫をします。やはり、どんな地方の物産展であっても、生産者が「絶対に売り切る」という信念を持っているかどうかが大きいと思いますよ。だから、物産展に限らず「自ら売りに行く」ことはとても大切だと思います。そして、手間ひまをかけるのを怠らないこと。手間ひまをかけた物は、他との差別化につながり、その商品ならではの魅力となります。それは言い換えると「ブランド力」に他なりません。

Q: 今注目しているご当地グルメありますか?

内田さん: 北海道の上ノ国町でよく獲れる「ゴジラエビ」を知っていますか? 正式名称は「イバラモエビ」で、「ガサエビ」とか「鬼エビ」とも呼ばれています。漁獲量が少ないので全国的な知名度はありませんが、地元の漁師さんたちの間では昔から食べられていて、名前の通りギザギザがたくさんあるのが特徴です。初めて食べたのは15年ほど前ですが、当時の部下が口の周りからたくさん血を流しながら無我夢中で食べていたのが忘れられません。それくらい美味しい。しかも、その殻を粉末にするとすごくよいダシが取れるんです。先日テレビのロケで実際に漁を体験してきまして、とても大変な思いをしました(笑)。でもその経験によってさらに「ゴジラエビ」のことを知る機会になりましたし、やっぱり美味しいと再確認できました。

 

地方には、まだ紹介せずに私の中でストックしている美味しい物がたくさんあります。「ippin」では、それらのストックの中からおすすめの商品をピックアップしてご紹介しています。将来的には、その地域だけにとらわれず、地方×地方などのコラボを企画してみたいですね。消費者目線に立って考えると、世の人たちは「より美味しい物」を求めています。物と物、生産者と生産者の掛け算で、いろんな可能性が広がっていくと思っています。

【クローズアップ】「手間ひま」こそがブランド力につながる。内田勝規

【プロフィール】

1957年東京生まれ。中央大学卒業後、東武百貨店に入社。CI委員会事務局や増床プロジェクト担当等を経て物産の担当に。2001年秋の東武百貨店「北海道物産展」では約4億円を売り上げ(前年比1億5千万円)、さらに2004年には年間売り上げで日本一(約13億円)を達成する。「北海道物産展といえば東武」といわれるまでに育て上げ、カリスマバイヤーと呼ばれる。2009年エグゼクティブバイヤーに就任。2010年東武百貨店を退社。地域のために共に考え、地域を元気にすることを趣旨として株式会社オフィス内田を設立。現在、日本国内はもとより海外での物産展の企画、商品等のプロデュースを手掛けている。

※掲載情報は 2015/04/24 時点のものとなります。

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