記事詳細
酒豪の土地に誕生した県内唯一のブルワリー
大皿に海山の幸を盛り込んだ皿鉢料理を囲んで、献杯、返杯を応酬する独特の酒文化が育つその高知県は、酒豪が多いことで知られています。2016年から2017年に発売された『47都道府県の一番搾り』の中でも、一番アルコール度数が高かったのが『高知に乾杯』の6.5%。そんなことからも生半可なお酒じゃ満足できない(?)県民性がうかがえます。しかし、淡麗辛口に代表される土佐酒を造る酒蔵は県内に18あり全国にファンも多数ですが、ビールのブルワリーは、2010年に土佐黒潮ビールが営業を終了した後、全国でも長崎県と高知県にはブルワリーが存在しない状況が続いていました。
そして、2018年に満を持して創業したのが、高知カンパーニューブルワリーの『TOSACOビール』です。
酒酵母を使い吟醸香とさわやかなキレを実現
大学で電気工学、大学院でバイオサイエンスを学んだ大阪出身の瀬戸口信弥さんは、大学の休みに旅で訪れた高知県に魅了されます。その後足繁く高知県を訪れるようになり、2017年の高知県ビジネスプランコンテストで優秀賞を受賞。それをきっかけに高知県に移住し、ブルワリーを立ち上げました。「高知県には果物や穀物など、ビールの副原料などになる食材が豊富にあります。例えば、高知の特産品のゆず。この皮を贅沢に使って『ゆずペールエール』を造りました。また、全国に知られる四万十川の清流ですが、ブルワリーのある土佐山田町に流れる物部川もダムの上流は四万十川や仁淀川にも負けない清らかさです。そんな水で育てた香長平野の田んぼで作られる食用のコシヒカリを、『和醸ケルシュ』『こめホワイトエール』の副原料に使っています」と瀬戸口さん。
中でも『和醸ケルシュ』は、ビール酵母の他に、高知県工業技術センターが開発した日本酒酵母「AA41」を使用し、低温でじっくりと発酵させています。それによって独特の吟醸香とさわやかなキレを実現しました。
グラスに注ぐときめ細やかな泡と立ち上るフルーティな香り。ふくよかな甘さが喉を転がり、すっと消えゆく上質な味わいで、このビールは、今年6月に開催された「ジャパン・グレートビア・アワーズ2019」で、吟醸ビールまたは酒イーストビール部門で見事金賞を受賞しました。(※)
ブルワリーはスーパーの精米工場のとなりにあって、精米したてのお米を業務用の大きな炊飯器で一気に炊き上げます。「使うのは酒造好適米でも高精米歩合でもないですが、日本酒では雑味になる部分も、ビールでは多彩な味を造る上で必要な魅力となっています」
瀬戸口さんの妥協のない一本気な想いでつくりあげた、酒豪も唸るこのビール。是非味わってみてはいかがでしょうか。
※受賞時は『和醸エール』でしたが、商品化するにあたり『和醸ケルシュ』と名前を変更しています。
※掲載情報は 2019/07/19 時点のものとなります。
- 1
キュレーター情報
ビアジャーナリスト/パンコーディネーター
宮原佐研子
日本パンコーディネーター協会認定パンコーディネーター、日本ビアジャーナリスト協会所属ビアジャーナリストとして日本ビアジャーナリスト協会HP、雑誌『ビール王国』(ワイン王国)、世界22カ国158本のビールを紹介するe-MOOK『ビールがわかる本』(宝島社)、ビアエンタテインメントムック誌『ビアびより』(KADOKAWA)他執筆。『ビール王国』では、「コンビニ限定うんまいビア ペア」で、コンビニエンスストアで買えるビールとパンのペアリングを連載。日本パンコーディネーター協会主催の講座「ワインよりおすすめ?パンとビールのおいしい関係」でパンとビールのペアリング体験講座も実施。