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旨み。それは優しさ、複雑さ、清らかさの三位一体
ワイン生産者には、スーパースター、天才、帝王、シンデレラボーイ、御大など異名を持つ、いや、尊称される人々がいます。シャンパーニュも同様で、その一人、鬼才とも求道者とも言われるのが、コート・デ・ブランはアヴィズ村に本拠を置くエリック・ド・スーザです。普通に話していると優しい笑顔、胸襟を開いての真摯な対話、優しく丁寧な説明など、むしろ神父さんというほうがあっていそう。でも確かに彼のシャンパーニュ造りを見れば鬼才や求道者にふさわしいものがあります。ビオディナミという自然にこだわった造りを標榜していますが、その徹底ぶりがすごい。馬を使って耕作する、土地のもつ力を最大限に発揮する、原始的でもあり、最新の化学の応用でもあり、そして仕上がったシャンパーニュはストイックながら自然の素朴さも感じられるもの。そのド・スーザがそれまでのものとは違うコンセプトで2004年に立ち上げたのが、今回紹介する「ゾエミ・ド・スーザ」です。
存命中の彼の母親の名をとったこのブランドは「より女性的、フレッシュでエレガントなスタイル」を目指していました。このプロジェクトに副醸造責任者として2011年にジョインしたのが当時まだ若かった長女シャルロット。僕が初めて彼女に会ったのは2012年。この時リリースされたラインナップはそれぞれフランス語で「美しさ」、「才女」、「魅惑」などと命名され、その中で僕は「気品(ディスタンゲ)」というロゼを称賛。編集長を務めるシャンパーニュ専門WEBマガジンシュワリスタ・ラウンジでも「本拠地アヴィズをはじめとするコート・ド・ブランのシャルドネに、アイ、アンボネイの豊かで力強いピノ・ノワールの組み合わせ。可憐なだけではなく力強さ、ただし押し出しの強い、私頑張るわ!!的な力強さではなく、芯の強さ。静かな微笑みですべてを受け入れるような、寡黙と可憐が同居した様な力強さが宿っています。余韻は壮大ではなく、清らかにほのかに、長く続きます。パンツスーツではなく、少し長めのふわっとしたスカート。ヒールは脱いで、ストッキングもいらない。
白いブラウスにナチュラルカラーの軽めのニットを羽織って…。大人の女性同士の豊かな秋の休日の午後から夕暮れへ、そんな雰囲気が似合うロゼ。男性におススメしたい場面は、まっすぐ育ってくれた娘の成人式や卒業記念。一緒にグラスを傾けて、今までとこれからに。静かで豊かな時間にそばにいて欲しいロゼでした」と紹介。とても清らかで優しく、それがとても自然だということで感動をしたことを思い出します。
あれから6年。シャルロット(写真左)はすでに醸造責任者となっていて、そこに妹のジュリーが、栽培・渉外担当として加わりました。ジュリーは、2008年から、シャンパーニュだけではなくブルゴーニュやローヌなど各地のビオディナミを実践する栽培家で研鑽を積み、DRC(ロマネ・コンティ)やボルドーの名門シュヴァル・ブランでも研修、武者修行ともいえるキャリアを積み、ノウハウをもって戻ってきたのです。2人の女性によって、2012年のゾエミ・ド・スーザは、2018年、より女性のためのシャンパーニュとなって日本に届けられました。もちろん哲学は父エリックさんと同様、徹底したビオディナミを標榜していますが、それでもやはり2人の感性がここには現れています。気品と命名されたあのロゼは、少し円熟味を増し、余裕のある輪郭、それでもやはり美しい生まれ育った環境だからこその気品は若いころのまま。そんな30代の女性が浮かびます。あのころシャルロットは20代の若さ。ロゼも同じ。今成長したシャルロットがいて、ロゼも自然に成長をしている。
そして今回紹介する「旨み」。これは当て字でもなんでもありません。本当に2人は日本語の旨みをリスペクトしてこのシャンパーニュに名付けました。シャルロットはこう語ります。「日本に来て初めてこの旨みという感覚を知りました。最終的にどの経験でこの命名にいたったのかははっきりしないのですが、逆に言えば、それだけ日本で体験した料理や場面、すべてがこの旨みという感動をもっていたのです」となんともうれしい話。実はジュリーも足利にあるココファームというワイナリーを訪問していた経験があり、旨みについてはシャルロットと同様、とてもポジティブな経験だったといいます。
さて、味わってみれば…もちろん合わせる料理は和食が浮かびます。様々な出汁を使った料理に和の柑橘を軽く添えたようなものには素晴らしいペアリングを見せてくれるでしょう。ド・スーザ流のビオディナミと、姉妹が世界で体験してきた2人の女性だからこその感性が結びついて初めて生まれる優しさと複雑さと清らかさの三位一体。これを彼女たちのトップキュヴェ(最上級)で名付けてくれたのもとても嬉しい。出荷は世界中で年間僅かに500本。希少アイテムですが、ぜひお試しを。
これからも注目したい2人の成長物語。こだわりが強そうな2人だけにぶつかりあいは?とちょっと突っ込んだ質問をしたところシャルロットは素敵な笑顔で「大丈夫。全然ぶつかったりはしてないんですよ」。そして1拍置いていたずらっぽく「今のところは(笑)」。経験を積み成長をしても6年前の少女の面影がきらっと光った瞬間。今後の姉妹の夢は、祖母ゾエミさんが所有するゾエミという区画、いつかその区画から収穫したブドウで造りたい。今も可能かもしれないけれど、今はその時ではない。2人の想いはちゃんと一致しているようでした。
※掲載情報は 2019/02/12 時点のものとなります。
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キュレーター情報
ワインナビゲーター
岩瀬大二
MC/ライター/コンサルタントなど様々な視点・役割から、ワイン、シャンパーニュ、ハードリカーなどの魅力を伝え、広げる「ワインナビゲーター」。ワインに限らず、日本酒、焼酎、ビールなども含めた「お酒をめぐるストーリーづくり」「お酒を楽しむ場づくり」が得意分野。
フランス・シャンパーニュ騎士団 オフィシエ。
シャンパーニュ専門WEBマガジン『シュワリスタ・ラウンジ』編集長。
日本ワイン専門WEBマガジン「vinetree MAGAZINE」企画・執筆
(https://magazine.vinetree.jp/)ワイン専門誌「WINE WHAT!?」特集企画・ワインセレクト・執筆。
飲食店向けワインセレクト、コンサルティング、個人向けワイン・セレクトサービス。
ワイン学校『アカデミー・デュ・ヴァン』講師。
プライベートサロン『Verde(ヴェルデ)』でのユニークなワイン会運営。
anan×本格焼酎・泡盛NIGHT/シュワリスタ・ラウンジ読者交流パーティなど各種ワインイベント/ /豊洲パエリア/フィエスタ・デ・エスパーニャなどお酒と笑顔をつなげるイベントの企画・MC実績多数。