煎り酒
合資会社丸新醤油醸造元 島根県益田市喜阿弥町イ−997−3
島根県の一番端っこにある益田市。萩・石見空港からほど近い小さな町は意外にもシャッターが閉まったメインストリートは存在しないようだ。目抜き通りの電柱はすべて埋設され、すっきりタウンという印象。かつて栄えた益田氏の名前をそのまま纏う町では歴史の味わいを感じる食の逸品が数多く作られている。
江戸時代の古文書に記された伝統調味料「煎り酒(いりざけ)」もそのひとつ。
それを地元の丸新醤油が復活させたのだ。今から450年前、戦国時代の1568年2月、益田地域の領主である益田藤兼・元祥父子は毛利元就のもとへ豪華な料理を用意してもてなしをしたとされる。その古文書には当時のいわゆるレシピが!それをもとに再現した祝い膳の料理のベースとなったのが煎り酒なのだ。
丸新醤油地元の歴史家や料理研究家の方々でつくる「中世の食再現プロジェクト」が伝統の味の再現に挑戦。古文書を参考に、地元の純米酒に梅干しや自家製天然醸造しょうゆ、鹿児島県枕崎産のカツオ節、長崎県壱岐島産の天然海塩を入れてじっくりと煮込み、戦国時代の伝統の味を復活させるに至ったのだ。
一般的な醤油ほど濃くはなく、塩分も軽め。地元高津川の鮎をはじめ、鯛などの白身魚の味付けにはぴったりだ。これからの季節、鍋料理の隠し味としても面白そうだ。かまぼこなどの加工品にもいいだろう。驚いたのは鮭のバター焼にかけたときだ。鰹の香りがほんのりと立ちのぼり、醤油とは違う味わいが鮭の旨みをぐっと引き出してくる。
豆腐や納豆にも使えそうだ。共通するのは味わいのやさしさが伝わること。戦国大名がどう感じたかまではわからないが、長い時を経て現代に伝えられる意義はとても大きいと思う。
島根県は食材や料理を活かす調味料が数多く作られており、その多くは地元でしか販売されていません。そうしたものをこれからも皆様にご紹介していきたい。
合資会社丸新醤油醸造元 島根県益田市喜阿弥町イ−997−3
※掲載情報は 2018/12/21 時点のものとなります。
フードビジネスデザイナー
嶋啓祐
全国の農村漁村をくまなく巡り、そこで使うホンモノの素材を探すことをライフワークにしています。ホンモノはいつも隠れています。全国の肥沃な土地で、頑固で不器用な生産者が作る「オーガニックな作品」を見つけて、料理人が少し手を加える。それが「ホンモノの料理」になります。毎月地方に足を運び、民泊に泊まり、地元の方々とのコミュニケーションを作るのが楽しみです。自然豊かな日本全体が食の宝庫です。自然、風土、生産者、素材、そして流通と料理人とその先にいる顧客。食に関わるすべての方が幸せになるような「デザイン」を仕事にしています。1963年に北海道は砂川(日本一になった美味しいお米ゆめぴりかの産地)で生まれ、18歳上京。大好物はイクラ、クレソン、納豆、ハーブ、苦手なのは天津丼などあんかけ系、豚足、焼酎。趣味は全国の神社巡りとご朱印集め。2018年より自宅料理コミュニティ「ビストロ嶋旅館」を主宰。