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山葡萄のさわやかなゴーフレット
以前百貨店の顧客会員情報誌の制作をしていた時の話。
年に一度ある大きな催事で「イタリアンフェア」がありスタジオで商品撮影をしていた中に「チャルダ」というものがあった。最初に見た時は「これはゴーフル?」と。直径が17センチほどもあり、有名な風月堂のゴーフルと同じような形だったが、チャルダという名称で間にはクリームなどはなく単に大きな煎餅状態だった。
バイヤーさんを取材するとチャルダというものは、イタリア・トスカーナ地方の伝統菓子で、婚礼等の引き菓子に新郎新婦の両家の家紋を小麦粉で焼き刻印したもので、ふたつ合わせて間にクリームなどを挟み繁栄を祝うというめでたいものだと。
そして、トスカーナではその当時としては高価な食材を使っていたのでメディチ家や王侯貴族が食べていたのだが、段々一般庶民まで広がり名物になったのだと。
このチャルダが気になりさらに聞いていくと、元々は古代ギリシャのパンを表す「オベリオス」がルーツで宣教師達によってヨーロッパに伝わったのだが、宣教師と言えばキリスト教に関するものだとピンと来た。
横道にそれる話だが、スペインのバルセロナの一番古い地区のホテルに宿泊していたが、目に前はバルセロナ大聖堂(サンタ・エウラリア)があり、特に信仰心は無かったのだが、ミサに参加(と、いうよりは教会から出られなくなった)し、見よう見まねで、十字を切り、隣の信者と手を繋いで祈りの共同祈願(アーメンとアヴェ・マリアしかしらない)をし、最後の神父の前に行き、パンを口に入れてもらい何だかわからないが敬虔な気持ちになった。
この時のパンはキリストのからだといわれ聖体拝受という儀式でワインはキリストの血でラテンカソリックでは司祭のみがワインを飲むのだ。チャルダは聖体拝受のパンの流れをくんでいるが、国によって名称が変わるのでややこしいのである。フランスでは「ゴーフル」という名前が、英語では「ワッフル」ドイツ語では「ウエハース」になり、みな少し違いはあるが同じ仲間なのだ。意味としては「蜘蛛の巣」とか「蜂の巣」というが、確かにそう見えなくもない。同じ仲間と言っても、柔らかいものから、固いものまであり、挟む内容もずいぶん違うものだ。
日本では、ゴーフルの商標は凮月堂の系統で共有されていたが、戦後ゴーフルの類似品が氾濫したため、神戸凮月堂がゴーフルの商標を登録し、他のメーカーはゴーフルと名乗れないそうだ。そのゴーフルと似た名称で「ゴーフレット」というのがあるが、ゴーフルが大判なのに対してゴーフレットは、小さいという意味らしくこれは、他のメーカーでも使えるのだ。岩手県北部に八幡平市という地域があり、スキーリゾート地としても有名で、十和田八幡平国立公園として秋田、青森、岩手の三県にまたがる自然がそのまま残っている雄大な地域である。
実は私がぐるなびippinで第1回に紹介したのはここ八幡平の山葡萄のエキスを塩と一緒に地熱で蒸し上げた「山葡萄塩」だったのだ。この山葡萄のゴーフレットが今回ご紹介するもので、八幡平でリゾートホテルを経営している(株)八幡平リゾートの商品で「八幡平山葡萄煎餅」。
煎餅とあるが、脇にはちゃんとゴーフレットと表示されており、岩手を代表する「南部煎餅」も想起される。南部鉄の鋳物で葡萄が刻印されて、間には山葡萄のジャムが挟まれていて、ゴーフレットでありながら郷土菓子の煎餅というのが面白い。
ミサの聖体拝受のパンのみばかりではなく、葡萄(ワイン)も同時にいただける(強引だが9「山葡萄煎餅ゴーフレット」はいかがだろうか。
※掲載情報は 2018/12/19 時点のものとなります。
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キュレーター情報
アートディレクター・食文化研究家
後藤晴彦(お手伝いハルコ)
後藤晴彦は、ある時に料理に目覚め、料理の修業をはじめたのである。妻のことを“オクサマ”とお呼びし、自身はお手伝いハルコと自称して、毎日料理作りに励んでいる。
本業は出版関連の雑誌・ムック・書籍の企画編集デザイン制作のアート・ディレクションから、企業のコンサルタントとして、商品開発からマーケティング、販促までプロデュースを手がける。お手伝いハルコのキャラクタ-で『料理王国』『日経おとなのOFF』で連載をし、『包丁の使い方とカッティング』、『街場の料理の鉄人』、『一流料理人に学ぶ懐かしごはん』などを著す。電子書籍『お手伝いハルコの料理修行』がBookLiveから配信。
調理器具から食品開発のアドバイザーや岩手県の産業創造アドバイザーに就任し、岩手県の食を中心とした復興支援のお手伝いもしている。