ケーパー塩漬け
ファミリア チャルロ
生まれて初めて食べた料理との出会いは、歳が経つにつれて、いつ頃食べたのか記憶が曖昧で思い出せないことがある。そんな思い出の料理の記憶からひとつ。オレンジがかったサーモンの上に小さな深緑色のちょっと崩れかかった丸いものとの出会いだった。たぶん、どこかのホテルか会館のダイニングだと思うが、それが、ケーパーとの出会いで、そのサーモンも燻製してあるソーモンフュメ(Saumon Fume)、ケーパーを少し潰してサーモンを食べる。
その時のケーパーは酢漬けだったが、塩味と酸味に、ほのかな苦味と辛みがサーモンにあって旨いと思ったのだ。それから、ケーパーを買ってきては、自宅でサーモンを楽しむ様になったが、これは、サーモンを食べるというよりも、ケーパーを食べたいがためだったような気がする。
この文章ではケーパーと表記しているが、他にはケッパー(英・caper)やケイパーともいい、フランス語ではカープル(capre)、和名はトゲフウチョウボク(棘風蝶木)、セイヨウフウチョウボク(西洋風蝶木)。地中海沿岸からイラン高原、アフガニスタン一帯に自生する常緑小低木で、蕾の部分がケーパーで、実はケーパーベリーといってオリーブの実に軸を付けたような形で、これも酢漬けにして食べるが、白ワインによく合うのだ。日本に輸入されているケーパーの主な栽培原産地はフランス、イタリア、スペインなどで、今回ご紹介するものは、イタリア最南端の島パンテッレリーア(Pantelleria)のもので最高級品として有名なのだ。東京のシチリア料理店”トラットリア・シチリアーナ・ドンチッヨ”の石川勉シェフ曰く、ケーパーはシチリア産に限ると。パンテッレリーア島は、シチリア島からは南西に約100kmでその向こう側アはフリカ大陸なのである。石川シェフは「良いケーパーは小粒のものが一番だ」と、言っているが、パンテッレリーア島産は確かに他のケーパーよりも小粒なのである。
わが家で使っているのは、塩漬けのケーパーだが、酢漬けのケーパーは、小粒のものは未成熟で酢漬けにするともろく崩れやすいのだと。このケーパーを作っているのは“ファミリア・チャルロ”というトスカーナ州 リヴォルノに近い海沿いの小さな町チェーチナにあるメーカーでチャルロ・ドナートとその3人の娘達 に よって1979年に誕生した。一切化学物質を使用せず厳格に家庭的な製法で、I.C.E.A(自然環境保護認証協会 )認定の家族経営の企業なのだが、実はケーパーの他にわが家ではここのトマトピューレの瓶詰も重宝しているのだ(写真はチャルロ・ドナートのトマトピューレに、ケーパーでスパゲッティ・アッラ・プッタネスカにしたものだ。
このケーパーが加わると,味にアクセントが出来て非常に料理自体が締まるのだ。普通塩漬けのケーパーは,塩分濃度が高いので塩抜きをして使うが、瓶の中の岩塩ごと使っても旨いのだ。
焼きっぱなしの鶏や豚のローストに、ちょっと塩が付いたままのケーパーを合わせて食べたても、刺身に添えても充分満足のいく味になり、ケーパーはわが家では無くてはならない存在なのである。
ファミリア チャルロ
※掲載情報は 2017/11/03 時点のものとなります。
アートディレクター・食文化研究家
後藤晴彦(お手伝いハルコ)
後藤晴彦は、ある時に料理に目覚め、料理の修業をはじめたのである。妻のことを“オクサマ”とお呼びし、自身はお手伝いハルコと自称して、毎日料理作りに励んでいる。
本業は出版関連の雑誌・ムック・書籍の企画編集デザイン制作のアート・ディレクションから、企業のコンサルタントとして、商品開発からマーケティング、販促までプロデュースを手がける。お手伝いハルコのキャラクタ-で『料理王国』『日経おとなのOFF』で連載をし、『包丁の使い方とカッティング』、『街場の料理の鉄人』、『一流料理人に学ぶ懐かしごはん』などを著す。電子書籍『お手伝いハルコの料理修行』がBookLiveから配信。
調理器具から食品開発のアドバイザーや岩手県の産業創造アドバイザーに就任し、岩手県の食を中心とした復興支援のお手伝いもしている。