【クローズアップ】異なる文化を伝えるのが喜び 勅使河原加奈子

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国際交流や文化交流など「海外と日本の橋渡しになりたい」との思いを学生時代から抱いていたという勅使河原さん。食というジャンルにその方法を見出し、フランスの一流シェフとの交流を通してたくさんのことを学ばれたそうです。今年の9月には自らのプロデュースによる、シチリア産オリーブとシチリア食材のお店「セドリック・カサノヴァ」をオープン。そこで今回、気になるお仕事について、有名シェフとのエピソードについてなど、お話をうかがいました。

一番しっくりくる分野が「食」だった

【クローズアップ】異なる文化を伝えるのが喜び 勅使河原加奈子

【勅使河原さんはどのようなお仕事をなさっているのか、具体的に教えていただけますか?】
フードデザイン&イベントプランニングを行う「CREMA」という会社を立ち上げ、主に対シェフで食材や企画のご提案をさせていただいています。

 

最近で言えば、食関連イベントの企画があります。フランスからグルテンフリーの活動家を呼んでグルテンフリーのフェアを開催したり、東北の缶詰メーカーと丸の内のシェフが共同開発した、地元食材を使った缶詰のお披露目イベントを企画したり。また鳥取県ともご縁があって、鳥取の食材を首都圏のお店やシェフにご紹介し、そのためのイベントも企画させていただきました。

 

あとは、ミソノ刃物という岐阜県のプロ向けの包丁メーカーのヨーロッパへの輸出コーディネートや、ソニークリエイティブさんのお仕事で、スヌーピなどPEANUTSキャラクターのライセンス事業にも関わらせていただいています。また、今でもジョエル・ロブションが来日した時の通訳や、銀座「エスキス」のエグゼクティブシェフを務めるリオネル・ベカのサポートと通訳もさせていただいています。

 

【「食」に興味をもつようになったきっかけを教えてください。】

私の母は料理を作るのが好きな人で、よくアップルパイやドーナツなどを手作りしてくれました。母の作るちらし寿司やお稲荷さんも大好きでしたね。そうやって衣食住のうち「食」にいちばん重きを置く家で育ったことが、ベースにあるように思います。

 

そして、私は大学の仏文学科を卒業しましたが、当時はフランス語が全く話せなかったんです。でも「何も身につけないまま社会に出るのは良くない」とか「フランス語が使える仕事をしなきゃダメだ」という思いがあって、フランス政府公式のフランス語学校である東京日仏学院(現:アンスティチュ・フランセ東京)に通い、バックパッカーとして何度もヨーロッパを周る旅に出かけるようになりました。1カ月半くらいかけてイタリア、スペイン、フランスを周り、マルシェに行ったり、知らないお店に入って珍しいものを食べたりするのが楽しかったですね。

 

その後日本に戻って、ワインのインポーターに就職しました。フランスやイタリアに関わる仕事といえば、ファッションやコスメ、車、インテリア、食といったジャンルが中心です。その中で一番しっくりきたのが「食」でした。ワインを扱う職業柄、フランス料理についても知るようになり、仕事で食と深く関わるようになったのはこれが最初です。

有名シェフとの出会いによって培われた知識と語学力

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【お仕事で本格的にフランス語を使うようになったのはいつ頃ですか?】
ワインのインポーターを退社して、フランスのシェフを日本へ招聘する会社に入ってからです。その会社にはフランス人の社長と私の2人しかおらず、私が入社した1年後に社長はフランスへ帰ってしまったんです。そこからは私が全部1人で企画書を作り、営業し、予算の都合で自らシェフの通訳として同行するようになりました。当時まだフランス語に堪能とは言えないレベルでしたが、喋れないとは言えない状況でしたね。でも、経済や哲学を訳すのとは違って、料理の世界はすごく明快。食材が切られ、火を入れられて変化していくのが見えるし、訳しやすかったんです。食は興味のあるジャンルだったこともあり、レシピを訳したり厨房で通訳をしたりしているうちに、どんどん覚えて話せるようになっていきました。

 

フランスに一度も留学したことのない私が、こうしてフランス語の通訳や翻訳ができるようになったのは、あの頃招聘した一流シェフたちのおかげです。食材に対する知識にはじまり、お皿選びの基本やカトラリーについてなど、フードコーディネーターが学校で習うようなことも全部シェフたちに教わりました。

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【これまで影響を受けたシェフとの出会いや、エピソードがあれば教えてください。】
フランスのシェフを日本に招聘する会社にいた頃、今から20年以上前の話ですが、当時は街場よりもホテルに、高級フレンチレストランがある時代でした。そんな中、1999年にジョエル・ロブションとお仕事させていただくチャンスが訪れます。彼の料理番組のテロップを監修させていただいたのがきっかけでご指名をいただき、料理評論家の山本益博さんと一緒に外部アドバイザーとして「ラトリエ ドゥ ジョエル・ロブション」のオープンに関わらせていただくことになったんです。世界的に有名なシェフということもあり、たくさんのインタビューで通訳を担当させていただきました。とにかくたくさん話す方だったので、かなり鍛えられましたね。

 

フランスのシェフを日本へ招聘する機会は少なくなりましたが、今度は彼らの日本における活動をサポートする機会が増えました。ミシェル・トロワグロが来日する時の通訳や、日本におけるPR活動をお手伝いさせていただいた時期もありますし、ハイアットリージェンシーにある「キュイジーヌ[s] ミッシェル・トロワグロ」の先代シェフを務めていたリオネル・ベカとは、もう9年の付き合いになります。現在リオネルは銀座「エスキス」のエグゼクティブシェフを務めています。

 

それで、トロワグロとリオネルは似ているところがあって、2人ともすごく勉強熱心で本もたくさん読むんですよ。とにかくボキャブラリーが豊富で、彼らの書くことを訳すには辞書が必要です。長年通訳をやっていると、辞書を使う必要はほとんど感じないものですが、あの2人は特別。普通のフランス人でも知らないような高尚な言葉を平気で使います。そういうシェフたちとの出会いにも、恵まれていると思います。

地中海の食文化をもっと近くに感じてほしい

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【新しいプロジェクトとして、9月に「セドリック・カサノヴァ」というお店をオープンされましたが、このお店をオープンすることになった経緯やお店のコンセプトを教えてください。】

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私はバックパッカー時代から地中海の食文化というものに惹かれていて、イタリアにはフランス以上に7〜8回は足を運びましたし、フランスに行ってもパリは通過地点で、すぐにマルセイユ行きの飛行機に乗ってしまうほどなんです。それに私の周りのフランス人はなぜか、地中海沿岸にアイデンティティを持つ人たちが多く、彼らを通して地中海料理を日本にお伝えしていながらも、なかなか距離が縮まらない現状をどうにかしたいという気持ちがありました。

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ある時、プロヴァンス在住の親しいシェフから、セドリック・カサノヴァを紹介されました。彼はパリ在住のフランス人ですが、父はシチリア出身のイタリア人、母はチュニジア系フランス人という、まさに地中海にゆかりの深い人物です。彼は、シチリアの小規模な生産者が、先祖が残してくれたオリーブ畑で大切にオリーブを育てていることを知ります。同時に、そのオリーブが国際的な基準の価格で安く買い取られ、他のオイルと混ぜられてしまうことを残念に思い、自分が生産者から直接オリーブを買い取ってオイルを作り、パリで売ることを思いつきます。

 

セドリックがパリに開いたお店「ラ・テット・ダン・レ・ゾリーヴ」は評判となり、ロンドンにもお店が出来ました。さらに今回、その東京店としてオープンしたのがこの「セドリック・カサノヴァ」というお店です。当初はセドリックのオリーブオイルを扱ってくれるインポーターを探していました。ところが、輸入卸をしたいという会社はあったんですけれど、セドリック的にはお店がなきゃダメだと。それがなかなか難しく、もう自分がやるしかないという感じで、このお店を作ることになりました。

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ここではセドリックのオリーブオイルを中心に、地中海の食材を扱っています。私としては、地中海という概念がわかりにくいのならば、いっそ地中海から物を持ってきてしまおうと。お店の中で地中海を体験してもらうことが、地中海の食と日本の食を縮める一番の近道だと考えました。オリーブオイルは全部で8種類あり、全てテイスティングが可能です。昼間はバー感覚での立ち飲みもできて、夜はパリのお店と同様に「ターブル・ユニーク」といって、店内で取り扱っているオリーブオイルとシチリア食材を使った小皿料理のコースを楽しんでいただくプライベートディナーを提供しています。

 

【扱っている商品や提供しているメニューで、面白いものはありますか?】
ディナーの「ターブル・ユニーク」で実際にご案内し、大好評のメニューがあります。一つはメイン料理。マグロの生ハムにフェンネルシードをかけて、レモンの皮をおろし、樹齢400年の古木から採れた余韻の長いオリーブオイルをかけて召し上がっていただきます。そしてこの料理には、熟成した純米酒の熱燗をおすすめしているんですよ。

 

最初は皆さん「え?」という反応ですが、一度飲めば驚かれて、お代わりする方も少なくありません。料理に旨みが凝縮されているので、アミノ酸たっぷりの日本酒のほうが軽やかなワインより合うというのと、お燗は温かく脂の融点に近いので、口に入れた時にマグロやオリーブオイルの香りがふわっと広がります。しかも脂が固まらないので消化にもいいという、いいこと尽くしのメニューです。

 

そしてもう一つ。締めのケイパーご飯です。これは「ケイパーの塩漬け」という人気商品を熱々のご飯の上にかけて、レモンの皮をおろして、ビアンコリーラというオリーブオイルをたっぷりかけて、かき混ぜて召し上がっていただくものです。オイルをかけてもベトベトしないように、でんぷん質の少ない北海道産の「ゆきひかり」というお米を使っているのもこだわりです。

 

なぜこのようなことをしているのかというと、リピーターを増やしたいから。家で使うときのヒントを与えるのが目的なので、ここで経験していただいて、お家で試していただく。使い方の伝授の場なので、コース料理でも3000円に設定しています。オリーブオイルは選び方がわからないこともあって、いろいろ試して浮気されやすい傾向があります。でもお味噌や醤油って、その家の味としてリピートされていますよね。できればこのオリーブオイルも、そのようにリピートしていただけるようなブランドに育てたいと思っています。

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【今後チャレンジしてみたいことはありますか?】
以前は海外の文化を日本に紹介することに専念してきましたが、3.11以降は、日本の文化を海外に紹介するという方向性に逆転しています。それによって面白いお仕事にもチャレンジする機会が増えているので、今興味を持っている日本酒のお燗というものを、もっと海外に広めたいですね。そして、オープンしたばかりのこのお店のことを知っていただくこと。地中海と日本の食の距離を縮めるということにも取り組んでいきたいと思っています。日本の家庭で「お母さんご飯にかけるオリーブオイル持ってきて!」という風景が当たり前になるのが理想ですね。


Cedric Casanova セドリック・カサノヴァ 
東京都渋谷区神宮前3-1-14
TEL:03-6721-0434
http://cedriccasanova.jp

 

【プロフィール】
東京都生まれ。学習院大学文学部フランス文学科卒。ワイン専門商社勤務後、フランス人シェフ招聘ビジネスに7年半関わり、2000年フードデザイン&イベントプランニング会社「CREMA」を設立。フランス人シェフの招聘を続ける傍ら、食イベントの企画制作、レストランのHP制作、食の撮影コーディネート、イベントのPRコーディネートなど食全般の仕事に携わる。同時に料理・ワイン・製菓・製パンに特化したフランス語専門通訳者および翻訳家としても活動。2011年秋以降は、地方創生をテーマとした地方食材のリサーチ及びフランス人シェフへのプレゼン活動、国内外での燗酒の普及にも携わる。2016年9月、シチリアのオリーブオイルや食材を扱う「セドリック・カサノヴァ」を渋谷区神宮前にオープン。

※掲載情報は 2016/10/22 時点のものとなります。

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