古くて新しい。日本最古のベンガラ産地で作られた、辛柚子酢「紅てんぐ」

古くて新しい。日本最古のベンガラ産地で作られた、辛柚子酢「紅てんぐ」

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高級磁器の赤絵付け用顔料を作っていた村「吹屋」をめぐる

皆さまは「ベンガラ」をご存じでしょうか?漢字では、「弁柄」や「紅柄」と書きます。

 

ベンガラは、紅色の顔料です。有田焼や伊万里焼、九谷焼などの磁器の絵付け用、また防虫・防腐の機能性から、家屋の塗料用など、日本の暮らしに古くから根付いている素材です。

 

古代より天然のものは存在していましたが、江戸中期(1707年)、岡山県高梁市成羽町にある「吹屋」という村で、日本で初めて人の手で作り出すことに成功しました。

古くて新しい。日本最古のベンガラ産地で作られた、辛柚子酢「紅てんぐ」

吹屋には、ベンガラの原料となる「ローハ」の製造業を営んでいた私の曾祖母の生家があり、お盆休みを利用して、久しぶりに足を運んできました。

 

電車だとJR伯備線備中高梁駅を下車後、「吹屋行き」バスに乗ってさらに約60分。今回は車で行きましたが、細く長い山道を抜けて見えてきたのは、赤銅色の石州瓦とベンガラ色の外観で統一された、ノスタルジックな町並み「吹屋ふるさと村」でした。

古くて新しい。日本最古のベンガラ産地で作られた、辛柚子酢「紅てんぐ」

この町並みから車で10分ほど移動すると、私の曾祖母の生家「広兼邸」があります。映画「八つ墓村」のロケ地にもなっており、現在は村の保存建造物として、どなたでも入館することができます。

古くて新しい。日本最古のベンガラ産地で作られた、辛柚子酢「紅てんぐ」

前述の通り、ベンガラは日本で初めて吹屋で製造され、伊万里焼などの磁器の赤絵付けなどに利用されていました。このベンガラは、その後も吹屋以外で製造されることはなく、江戸時代から大正時代ごろにかけては、日本で唯一のベンガラの産地となっていました。

 

日本最初の磁器である伊万里(有田)焼は江戸時代中期、長崎の出島から海をわたり、ヨーロッパの王侯貴族を虜としました。彼らは、美しい磁器を自分たちの手で作りたいと思うようになり、研究を重ね、そして1710年にヨーロッパ初の硬質磁器窯「マイセン」がドイツに誕生しました。その時代にヨーロッパの王侯貴族を魅了した伊万里焼に使われていた「赤色」は、実はほとんど全てといってよいほど、岡山の吹屋でつくられたベンガラだったそうです。

 

この事実を知ったのは、今年の春頃のことでした。自分の先祖が営んでいた事業と、西洋磁器の歴史が結び付いたとき、私が幼い頃から洋食器、特に西洋の硬質磁器に魅了され続けていたのは、「西洋磁器の歴史の奥にある日本、そして さらにその奥にある『ご先祖様のうみだした赤色に共鳴していたから』なのでは」と感じ、言葉にできない衝撃と感動を覚えました。

 

今回の吹屋めぐりを通し、このような東西文化の統合性を感じることのできる磁器について、もっと深く学び、その魅力を発信していきたいと再認識することができました。

 

人のぬくもりを感じる、古くて新しい辛味調味料「紅てんぐ」

さて、そんな岡山県高梁市にある吹屋で見つけた「吹屋の紅てんぐ」が、今回ご紹介したい逸品です。

古くて新しい。日本最古のベンガラ産地で作られた、辛柚子酢「紅てんぐ」

赤唐辛子と柚子果汁を使用した、とても珍しい辛い柚子酢。

 

ソース状で食べ応えは十分。原材料は柚子果汁、唐辛子、食塩の3つのみで完全無添加、柚子と唐辛子は吹屋で作られたものです。

古くて新しい。日本最古のベンガラ産地で作られた、辛柚子酢「紅てんぐ」

唐辛子の辛さと柚子の酸味が絶妙に溶け合った、なんともヤミツキになる調味料です。タバスコがわりにピザやパスタなどに使うのも良いですが、柚子の風味を生かすなら、タコや鯛などの魚介類を使ったカルパッチョや、炒め物のアクセントに使ってみるのもオススメです。私は吹屋で購入した翌日に、早速アラビアータの唐辛子替わりに使ってみました。

古くて新しい。日本最古のベンガラ産地で作られた、辛柚子酢「紅てんぐ」

製造元である佐藤紅商店の代表・佐藤拓也さんは、平成24年に大阪から高梁市に移住し、地域おこし協力隊として吹屋地域の活性化に取り組まれている方です。

古くて新しい。日本最古のベンガラ産地で作られた、辛柚子酢「紅てんぐ」

「紅てんぐ」の名前の由来は、高梁市にある樹齢1200年の「祇園の天狗大杉」。そこで羽を休めたといわれる伝説の天狗が、美味しさを届けます、という想いを込めて「紅てんぐ」と名付けたそうです。

 

佐藤さんは、まずは地域の人に「美味しい」と喜んでもらえるものを作り、その声が少しずつ全国に広がっていく。そんなモノ作りを目指して、大量生産ではなく、田舎のゆったりとした雰囲気を守りながら、地域のペースで商品を作り続けているそうです。

 

「温故知新」。昔の事をたずね求めて、そこから新しい知識・見解を導く、という中国の思想家・孔子の教えがあります。

 

ヨーロッパの王侯貴族までも魅了し、「世界で最も美しい」とまで言われた吹屋ベンガラの赤色は、大量生産ができる工業用ベンガラの普及に伴い、徐々に衰退し、昭和49年にその製造を終えました。

 

そんな大量生産の波に飲み込まれた歴史をもつ吹屋で、あえて大量生産ではなく、地域に根差し、ゆったりとしたモノ作りにこだわる佐藤さん。個性的なパッケージは、どこかノスタルジックな雰囲気を漂わせています。けれど、今までありそうでなかった刺激的な味わいです。

 

人のぬくもりを感じる、“古くて新しい”辛味調味料。全国の方にお愉しみいただきたい逸品の味です。

※掲載情報は 2018/08/23 時点のものとなります。

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キュレーター情報

加納亜美子

料理家/西洋陶磁史研究家

加納亜美子

洋食器を中心とした高級食器シェアリングサービス「カリーニョ」や、食器の魅力を伝えるため「おうちレストラン」をコンセプトとした会員制料理教室「一期会」を運営。洋食器輸入代理店とのコラボレーションイベント、百貨店文化サロンでのセミナー講師、レシピ開発、商品開発、WEB雑誌へのコラム執筆など、多岐にわたり活動中。

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