日本のチーズケーキのルーツはここにある!駒込の老舗洋菓子店アルプスの「ほほえみ」

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“チースソフレー”から始まった日本のチーズケーキ文化

明治時代に活躍した村上弦斎という小説家がいた。彼の書いた『食道楽』は徳富蘇峰の『不如帰』と並んで大ベストセラーになっていたのだ。小説の形を取りながら、物語の筋に600以上の料理や食材がはめ込まれていて、『報知新聞』の人気連載小説だった。この『食道楽』(岩波文庫版下巻)第219回に「ソフレー」という料理が登場する。「ソフレー」とは何か?少し引用しよう。「ソフレーとは泡立てしたものを膨らまししたものをいいます」つまり、現在私たちがいっている「スフレ」のことである。この中に「玉子の黄身を二つへ砂糖を小匙一杯と塩胡椒磨卸(すりおろ)したチース(原文ママ)大匙三杯とよくよくよく泡たたせて混ぜておいた玉子の白身二つをよくよく泡たたせて……」これを、焼いてできるものが「チースソフレー」である。

日本のチーズケーキのルーツはここにある!駒込の老舗洋菓子店アルプスの「ほほえみ」

この「チースソフレー」が現在の「チーズケーキ」なのであるが、さらに遡り1873年の「万宝珍書」の「甘味の製法」という項目にライスチースケーキという記述あり、これが、日本での最初の「チーズケーキ」だといわれている。「万宝珍書」のレシピは村上弦斎の『食道楽』にも引用されているが、(もっと知りたい方は、国立国会図書館オンラインで)美味しそうな感じはしなく、チーズはおろかバターすら一般的にはあまり好まれている食品ではない時代で、チーズケーキの登場は戦後まで待たないといけない。

 

チーズケーキが一般化したのは1974年頃といわれており、その前史は、戦後アメリカ進駐軍が持ち込んだベイクド・チーズケーキ(アメリカのチーズケーキはポーランドからのユダヤ系移民が持ち込んだ)で、1964年東京オリンピックの年に赤坂「トップス」がレアチーズケーキを、1969年に神戸の「モロゾフ」がクリームチーズケーキを発売した。その1974年という年は、オイルショックで日本も世界の動静と無関係ではない時代の入口でないだろうか。ワインも飲まれるようになり、チーズなどの乳製品にも抵抗無く、チーズケーキも人気商品となり、食の洋風化が一般化したのである。最初にチーズケーキに出会ったのも記憶を辿っていくと確かにこの時期だったように思う。ケーキといえば甘いものと思っていたのが、確かにチーズの味のするケーキに最初は戸惑ったが、段々慣れてくると段々旨いものだと思うようになったのだ。

日本のチーズケーキのルーツはここにある!駒込の老舗洋菓子店アルプスの「ほほえみ」

今,考えるとチーズケーキは「お子さま」が食べるものではなく、「大人の女性」が食べるものというポジションではないか、絶対的に女性からの支持が多く、チーズケーキの認知にはその当時の女性誌が多く誌面で掲載した功績でもある。アメリカからのベイクド・チーズケーキが元で、チーズケーキはその後に日本で独特の進化を遂げるのであるが、レアチーズケーキ、クリームチーズケーキ、焼きチーズケーキとどんどん、ふわふわやわらかく食べやすくなり、極東に位置する日本は海外からの文化が、固定し(パーマネント)独自化する。

口当たりがやわかい「The Japanese style cheesecake」

日本のチーズケーキのルーツはここにある!駒込の老舗洋菓子店アルプスの「ほほえみ」

1959年(昭和34年)日本全国が皇太子のご成婚で「ミッチーブーム」の起きた年の10月に駒込に「アルプス洋菓子」が開店した。現在のJR駒込駅から徒歩1分の距離で、近所には「六義園」もあり山手線沿いにしては落ち着いた地域だ。店内に入ると、思わず懐かしいと声のでそうなケーキが並んでいる。ピンクのホールケーキにシルバーのアラザンなんて、とても子どもの頃の昭和なイメージなのだ。

日本のチーズケーキのルーツはここにある!駒込の老舗洋菓子店アルプスの「ほほえみ」

また、老舗の製菓店には東郷青児の絵が似合うのだ。ここのアルプス製菓店もそうだが、「タカセ池袋本店」や自由が丘「モンブラン」でも東郷青児の絵を包装紙などに使用しているのだ。ちょっとレトロモダンが昭和な店にはピッタリなのだ。今回ご紹介するチーズケーキは「RISETTESリゼット」フランス語で「ほほえみ」。茶席の主菓子にしても良い感じで、ソフトなチーズケーキの口当たりがやわかく、まさに日本発祥の「The Japanese style cheesecake」なのである。

※掲載情報は 2018/08/24 時点のものとなります。

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キュレーター情報

後藤晴彦(お手伝いハルコ)

アートディレクター・食文化研究家

後藤晴彦(お手伝いハルコ)

後藤晴彦は、ある時に料理に目覚め、料理の修業をはじめたのである。妻のことを“オクサマ”とお呼びし、自身はお手伝いハルコと自称して、毎日料理作りに励んでいる。
本業は出版関連の雑誌・ムック・書籍の企画編集デザイン制作のアート・ディレクションから、企業のコンサルタントとして、商品開発からマーケティング、販促までプロデュースを手がける。お手伝いハルコのキャラクタ-で『料理王国』『日経おとなのOFF』で連載をし、『包丁の使い方とカッティング』、『街場の料理の鉄人』、『一流料理人に学ぶ懐かしごはん』などを著す。電子書籍『お手伝いハルコの料理修行』がBookLiveから配信。
調理器具から食品開発のアドバイザーや岩手県の産業創造アドバイザーに就任し、岩手県の食を中心とした復興支援のお手伝いもしている。

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