海外デザイナーが引き出した漆器の新たな可能性。越前漆器「STORE」

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シンプルな四角い容器でも、ほどよく丸みのある造形が美しい

先月、福井県の鯖江に出張で行ってきました。
鯖江は、国内シェアを9割以上占めるメガネの産地です。
鯖江の中でも河和田という地域では、今でもメガネを作る職人も多く、分業の家内制手工業として発展してきました。
河和田のもう1つ有名なものが越前漆器です。
越前漆器の始まりは、今から1500年以上も前のことです。古墳時代の末期に、即位する前の第26代継体天皇が、冠の修理を片山集落(現在の鯖江市片山町)の塗師に命じられました。 その修理をした時に黒塗りの椀を献上したところ、とても感動され、集落で漆器づくりをするように奨励されたのがきっかけとされています。

 

越前漆器には、大別すると2つあります。伝統的な本漆を使った木製漆器と、ホテルやレストラン、病院で使われる業務用漆器です。鯖江は、「河和田塗り」と呼ばれる木製漆器も有名ですが、業務用漆器でも国内シェアを80%以上占めています。業務用漆器とは、木材の代わりに成形による樹脂を使い、本漆の代わりにウレタン塗装にすることで、大量生産が可能となり安価に提供できる漆器のことです。
「業務用漆器が産業として発達したから、伝統的な本漆も続けることが出来た、お互いに持ち持たれつの共存共栄の関係だ」と地元の人が教えてくれました。

海外デザイナーが引き出した漆器の新たな可能性。越前漆器「STORE」

その鯖江に行った時に、漆器や雑貨、洋服を扱うセレクトショップ、ataW(アタウ)に行って来ました。
ataW(アタウ)を運営する関坂漆器は、1700年(元禄14年)に始まり、300年以上の歴史があります。もともと職人による木製の漆器づくりが行われてきましたが、1960年代に時代の流れを受け、主力事業を需要の多い業務用漆器にシフトしました。

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業務用漆器には、安価なだけでなく、丈夫で取り扱い易いというメリットもあります。
また、業務用漆器の塗装技術が進歩したことにより、質感も良く美しいものも数多くあります。

海外デザイナーが引き出した漆器の新たな可能性。越前漆器「STORE」

そのataW(アタウ)で、STOREという不思議な容器を見つけました。
デザインと色合い、コンセプトが面白かったので、購入してみました。デザインしたのは、ロンドンを拠点とするサム・ヘクトとキム・コリンによるデザインスタジオ、インダストリアル・ファシリティです。関坂漆器が、SEKISAKAというブランドを立ち上げ、作ったものです。

海外デザイナーが引き出した漆器の新たな可能性。越前漆器「STORE」

和と洋の要素が入り混じっており、業務用漆器の新たな可能性を感じました。考えてみると、ライフスタイルは欧米化していて、リビングにはソファがありますが、食生活となると日本の食べものを召し上がる方も多いと思います。食べものを入れる器を洋食器にするか和食器にするかは、「空間に合わせるべきか」「食べる物に合わせるべきか」と悩みどころです。このSTOREを見ると、洋と和のバランスがちょうど良いです。外側は洋ですが、中を見ると黒塗りで和を感じます。

海外デザイナーが引き出した漆器の新たな可能性。越前漆器「STORE」

例えば、ソファで映画を観ながら、お菓子の「かりんとう」を食べたいという時には、食べものを入れる容器としても便利です。お行儀の悪いことを考えなければ、ソファの肘掛けに置いても全く違和感がないのです。

海外デザイナーが引き出した漆器の新たな可能性。越前漆器「STORE」

中を見ると内側が黒塗りで、日本のお菓子を入れると相性が良く、とても美味しそうに見えます。

海外デザイナーが引き出した漆器の新たな可能性。越前漆器「STORE」

蓋を閉じておけば、リビングのソファに馴染み自然な感じがします。
ツヤのない落ち着いた色合いと、四角い箱状なのに底に丸みのある感じが、とても上品です。
容器の蓋は木材なので、温かみもあります。
多目的な用途に作られたので、もちろん食べもの以外にも使っていただけます。
例えば、メガネとメガネ回りのお手入れ道具を入れておいても良いかなとも思いました。

 

日本人目線に立ってみると、一般的に業務用漆器の用途というのは、生活の中で人がどのように使うかを考えるまでもなく限定してしまいます。
そこをあえて用途を決めずに、使う人の裁量に委ねるというのは、とてもシンプルな発想ですが、とても革新的なことであり、外国人のデザイナーだから気が付く盲点だったのではないかと思います。伝統のある越前漆器を再解釈し、洋と和が交錯するプロダクトは、今の日本人のライフスタイルにもマッチします。
このSTOREは、越前漆器の新たな可能性を提示してくれたと思います。
あると便利な容器なので、ぜひご自宅用もしくはギフト用に買われてみてはいかがでしょうか?

海外デザイナーが引き出した漆器の新たな可能性。越前漆器「STORE」

※掲載情報は 2017/11/12 時点のものとなります。

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キュレーター情報

荒岡俊行

荒岡眼鏡の三代目 眼鏡店ブリンク店主

荒岡俊行

1971年生まれ。東京・御徒町出身。1940年から続く「荒岡眼鏡」の三代目。
父方も母方も代々眼鏡屋という奇遇な環境に生まれ育ち、自身も眼鏡の道へ。

ニューヨークでの修業を経て、2001年に外苑前にアイウエアショップ「blinc(ブリンク)」、2008年には表参道に「blinc vase(ブリンク・ベース」をオープンさせる。
「眼鏡の未来を熱くする。」をミッションに掲げ、眼鏡をカルチャーの1つとして多くの方々に親しんでいただけるよう、眼鏡の面白さや楽しさを日々探求しています。

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