伝統工芸品のフードイノベーション

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唯一無二 至極の一膳「煤竹(すすだけ)箸」

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羽田からで約70分。出雲縁結び空港から車で約1時間の道のりは、のんびりとした風景が広がります。奥出雲はかつて「たたら製鉄」が盛んで高品質な玉鋼を使った刀や鉄製品を産み出した日本の産業の核ともいえるところでした。多くの山林王が存在し、山を削り、砂鉄を採り、それを鉄に変える。削った山は棚田として再利用し、その財はいまも日本遺産として残されているほど。そのような環境の中、亀嵩では古くから算盤製造が盛んで、現在も以前よりは減少しているとはいえ全国の珠算塾や文具店に今も変わらず出荷されています。

 

その算盤の軸として使われている固い煤竹を「箸」に変えることによって、食の世界にアプローチしているのが若槻和宏さんです。

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すべて自分だけの一点もの

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何と言ってもすべて手作りで一点もの。同じものを10セットといわれても、作りようがないのが煤竹の箸の特徴です。機械で作るわけではないので時間もかかります。今でこそ慣れて、手作業ながらも効率的に生産できるようにはなったものの、実際に手に取ってみて初めてわかるものなので、安易にネットで販売などできません。

 

単に「箸」という商品で考えると競合となる商品はたくさんあります。しかし、煤竹の箸の特徴は、先を細くしても折れづらい、見栄えのいい対合わせのデザイン、そして何と言っても一点もの。名だたる料理人の間でも人気で、ちなみに調理に煤竹の菜箸を使うと、熱に強く、強度もあり、先端が細いので繊細な盛り付けにもってこいとのこと。

 

今や、煤竹の箸は高価(1セット15,000円前後)にも関わらず、その価値を理解する顧客から、注文が途切れることなく続くまでに成長しています。若槻氏はその流れをうまく利用して、煤竹を柄に地元の鋼を使ったナイフや工芸品を制作中とのこと。地元ではほとんど流通していないにも関わらず、噂や評判を耳にした出雲地方の名家からも注文が入るようになり、デザインと手作業にかける時間はどんどん増えていると聞きます。


食の縁起物として

 

これからのマーケティングを考えていくにあたり、ひとつのストーリーを思いつきます。それは地元のヤマタノオロチ伝説。奥出雲の地に降り立ったスサノオは、上流から流れてくる一対の箸。その上にいたのはヤマタノオロチに命を狙われる父母と愛娘の稲田姫です。スサノオは、彼らを守るために単身オロチに立ち向かい、見事に勝利し、稲田姫を娶るのです。箸は西洋のナイフ、フォークと違い、一対で素材や料理と向き合います。二つ合わせてひとつ。これは日本だけの文化なのではないでしょうか。煤竹は左右同じではなく、くっつけて一つの形になるのです。これで煤竹箸イコール縁起物となったのです。

 

食に向き合うときに欠かせないのが箸。生涯使える箸を持つことで、より真摯に、そして楽しく食卓を囲むことができるのではないでしょうか。

※掲載情報は 2017/07/21 時点のものとなります。

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嶋啓祐

フードビジネスデザイナー

嶋啓祐

全国の農村漁村をくまなく巡り、そこで使うホンモノの素材を探すことをライフワークにしています。ホンモノはいつも隠れています。全国の肥沃な土地で、頑固で不器用な生産者が作る「オーガニックな作品」を見つけて、料理人が少し手を加える。それが「ホンモノの料理」になります。毎月地方に足を運び、民泊に泊まり、地元の方々とのコミュニケーションを作るのが楽しみです。自然豊かな日本全体が食の宝庫です。自然、風土、生産者、素材、そして流通と料理人とその先にいる顧客。食に関わるすべての方が幸せになるような「デザイン」を仕事にしています。1963年に北海道は砂川(日本一になった美味しいお米ゆめぴりかの産地)で生まれ、18歳上京。大好物はイクラ、クレソン、納豆、ハーブ、苦手なのは天津丼などあんかけ系、豚足、焼酎。趣味は全国の神社巡りとご朱印集め。2018年より自宅料理コミュニティ「ビストロ嶋旅館」を主宰。

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