甘いか塩っぱいか、十割糀みそケーキ

甘いか塩っぱいか、十割糀みそケーキ

記事詳細


紹介している商品


和と洋の絶妙なバランスのパウンドケーキ

甘いか塩っぱいか、十割糀みそケーキ

NHKの朝の連ドラで人気を博した『あまちゃん』で全国区になった「まめぶ汁」という料理はご存知だと思います。劇中「ビミョーだよね〜」、「甘さとしょっぱさが口の中で緊急会議を開くよね〜」と、どんな味かの想像の出来ない料理で紹介されました。「まめぶ汁」は胡桃や黒砂糖を包んだ団子を、野菜、焼き豆腐、油揚げ、干瓢等と共に出汁で煮込んだ料理なのです。まめぶ(豆ぶ)とは、中に入っている胡桃入りの団子を指します。この甘いのかしょっぱいのか判然としない食べものは、岩手県三陸地方にはよく見られるのです。

 

「かま焼き(かます焼きもち)」と料理があり、形が草刈り鎌に似ているので鎌もちとも呼ばれ、焼いて食べるとさらに香りがよく「鎌焼き」という当て字もあるのです。この「かま焼き」は幼少の頃から親しんでいる味覚だったのです。米の粉に熱湯を加えてこねてから、丸い形に延ばして、その中に小豆あんや味噌を入れて半月に折りたたみ、蒸したり、茹でて食べるのです。何かに似ていると思いませんか?そうです餃子に形状はよく似ています。中国の水餃子やロシアのペリメニと同じ流れの中の料理で発展してきたのです。この「かま焼き」の味噌味はそれこそ、しょっぱい味噌に砂糖が入り、さらに刻んだ胡桃も入っているのです。端から噛んでいくと中の味噌がとろりと溶け出し、「ビミョーな味」なのです。最近は味噌を入れたり使ったりしたケーキやソフトクリームも増えましたが、今回ご紹介するのは「十割糀みそケーキ」。

 

それぞれ地方には、地元の食生活に根ざした味噌や醤油の醸造所があります。岩手県釜石市に1902年に味噌の醸造所として「藤勇」は創業しました。釜石市は製鐵所の町として発展したのですが、全国の製鐵所から人の移動が多く、その中で九州の製鐵所からも多くの人が来て交流が盛んでした。醤油の味は地域でずいぶん違いますが、九州の醤油は甘口が多く、東北では塩っぱい醤油が主体です。藤勇は最初、味噌の製造所として出発しましたが、製鐵所の初代所長の支援で醤油の製造もはじめましたが、これが九州の影響を受けて、東北では珍しい甘口の醤油が誕生したのです。100年以上も地元で愛される味噌醤油メーカとなったのです。しかし、2011年の東日本大震災で市内にあった工場は壊滅的な被害を受けて、何とか工場を再建して仕込みと出荷は震災から2年半後でした。震災後従来の製造を見直し、素材や自社の糀みそを活用した商品作りを模索していました。その味噌、醤油の醸造所がケーキを作ったのですが、その開発には、「発酵女子」の役割があったのです。

甘いか塩っぱいか、十割糀みそケーキ

藤勇醸造の小山和宏専務の長女の明日奈さんが、東京の会員制シェアキッチン「okatteにしおぎ」に集うメンバーとの出会いから誕生しました。発酵女子は、味噌や糠床といった発酵食品を自在に使った料理を得意とし、「塩麹(こうじ)」や「酒かす」などの発酵食にも注目し、藤勇の十割糀みそを気に入られたメンバーの方から、糀みそを使ったスイーツを作りたいという話を受けました。メンバーの方が実際に作ってみたところ糀みそがケーキと非常に合うということが分かり、レシピを考案。釜石と東京の商品作りが始まりました。そして東京で開かれたイベントで試験的に販売した結果、評判も上々で、地元での販売を決めたのです。

甘いか塩っぱいか、十割糀みそケーキ

藤勇と地元のアンジェリック洋菓子店で、試作を繰り返したそうです。生地に味噌を練り込むのではなく、マーブル状に味噌がケーキの断面に現れるようにし、味噌の味もしっかり味わえていながら洋菓子としての甘さも追求する。使われた十割糀みそは岩手県産の米と大豆100%で仕込んだ甘めの味噌で、パウンドケーキは材料の小麦粉の半分、卵が岩手県産など、地域食材を主体にして甘めの中に味噌の甘塩っぱい味にアクセントとして胡桃の塩梅が良いのです。この十割糀みそケーキは「ビミョー」ではなく、「和と洋の調和」が素晴らしく旨く、私はウィスキーのお供に愉しんでいます。

紹介しているお店
藤勇醸造株式会社

※掲載情報は 2016/11/18 時点のものとなります。

  • 14
ブックマーク
-
ブックマーク
-
この記事が気に入ったらチェック!
甘いか塩っぱいか、十割糀みそケーキ
ippin情報をお届けします!
Twitterをフォローする
Instagramをフォローする
Instagram
Instagram

キュレーター情報

後藤晴彦(お手伝いハルコ)

アートディレクター・食文化研究家

後藤晴彦(お手伝いハルコ)

後藤晴彦は、ある時に料理に目覚め、料理の修業をはじめたのである。妻のことを“オクサマ”とお呼びし、自身はお手伝いハルコと自称して、毎日料理作りに励んでいる。
本業は出版関連の雑誌・ムック・書籍の企画編集デザイン制作のアート・ディレクションから、企業のコンサルタントとして、商品開発からマーケティング、販促までプロデュースを手がける。お手伝いハルコのキャラクタ-で『料理王国』『日経おとなのOFF』で連載をし、『包丁の使い方とカッティング』、『街場の料理の鉄人』、『一流料理人に学ぶ懐かしごはん』などを著す。電子書籍『お手伝いハルコの料理修行』がBookLiveから配信。
調理器具から食品開発のアドバイザーや岩手県の産業創造アドバイザーに就任し、岩手県の食を中心とした復興支援のお手伝いもしている。

次へ

前へ