天皇の料理番の故郷の味 辛味大根で“ピリッ”といただく「越前おろしそば」

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越前産の辛味大根をからめて食べる、風味豊かなそば

TBSテレビ60周年特別企画として放映中のドラマ・シリーズ「天皇の料理番」に観入っています。大正期から昭和期に宮内省(現宮内庁)で大膳職司厨長を務めた秋山徳蔵さんの生涯を描いた杉森久英の小説をもとに、不良少年が料理に目覚め、周囲の助けを得て苦労しながら天皇の料理番に登りつめていく物語はドラマチックで、料理好きならずとも見逃せません。

 

さて、先日、そんな秋山徳蔵さんの生まれ故郷である福井県の武生(たけふ。現・越前市)を訪れる機会がありました。武生にはかつて越前の国の国府が置かれており、「源氏物語」の作者・紫式部が若いころの一時期を過ごしたという古都。今も、寺社群などおもむきのある町並みが残っています。

 

そんな武生を代表する郷土料理といえば、「越前おろしそば」。辛みのある大根おろしを添えて、だしや削り節を加えただけのシンプルなそばなのですが、とにかくおいしいのです。今回は、JR北陸本線・武生駅近くにある「御清水庵」さんと、「そば蔵 谷川」さんでそばをいただきました。

 

越前そばは、そば殻まで実を挽き込んでそば粉を作るので、黒っぽく、風味もいっそう豊かだといわれています。ですので、そばの香り高さが際立っていて、麺にもコシがあります。そして昆布や鰹節からとった、つゆのだしの風味とコクもすばらしい。また、越前産の辛味大根のピリっとした強い辛さは相当なもので、最初はちょっとびっくりするほどなのですが、越前そばにはこの辛い大根おろしでないとしっくりこないのが、だんだんわかってきます。

 

越前そばは、“ぶっかけ”で食べることもあれば、つけ麺で食べることもありますが、新そばと大根の旬のシーズンが重なる11月以降にいただくと、食べる喜びもさらに倍増するはずです。

 

越前そばの発祥は、室町時代中期の文明3年(1471年)に、武将・朝倉孝景が災害時の飢饉や戦時などに備えた保存食としてそばの栽培を奨励したことに始まり、その後、江戸時代に当地の城主・本多富正が、現在の越前そばの礎を築いたといわれています。

そして、「越前おろしそば」が全国区になったきっかけは、昭和天皇が昭和22年に福井を行幸された際に、当地でそばを召し上がられて、異例のおかわりを所望されたほど大いに気に入られたことだったとか……。この時、メニューに越前そばを進言したのが、何を隠そう、秋山徳蔵さんだったそうです。

 

今でこそ「ご当地グルメで町おこし」というのは珍しくありませんが、秋山さんは郷土料理で故郷をPRする先駆者であったともいえそうです。ともかく、天皇の料理番を生んだ武生は、皇室との関わりもさることながら、何かこう、特別な味覚センスをはぐくむ土地柄があるような気がしてなりません。

 

現在、武生を中心にした越前地方には、越前そばのお店が集中し、現地では「越前おろしそばマップ」も配布されていました。そんな風に各店が味を競っていること、また地元・福井産のそばを推奨したり、そば粉の割合70%という基準をクリアする認定制度を福井県が設けたり、さらに福井県下の製粉業者が石臼挽きを積極的に採用していることなど、おいしさの陰には、生産者やそば店の地道な努力と情熱が隠れているのです。

 

ミネラルやビタミン類などの栄養素が豊富なそばに、大根を合わせた健康食でもある越前おろしそば。武生にある「越前そばの里」では各種そばの通販を行っており、お取り寄せが可能です。天皇の料理番・秋山徳蔵さんの故郷の味をぜひご自宅でも味わってみてください。

天皇の料理番の故郷の味 辛味大根で“ピリッ”といただく「越前おろしそば」

※タイトル画像は、「そば蔵 谷川」さんの、手打ち越前おろしそば。

※掲載情報は 2015/07/07 時点のものとなります。

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キュレーター情報

青木ゆり子

各国・郷土料理研究家

青木ゆり子

雑誌「ぴあ」等の記者を経て料理に目覚め、2000年に「世界の料理 総合情報サイト e-food.jp 」を創設。以後、各国の「郷土料理」をテーマに、サイト運営、執筆、レシピ研究および開発、在日大使館・大使公館での料理人、料理講師等などに携わる。

地方色あふれる国内外の郷土料理の魅力を広く伝えるとともに、文化理解と、伝統を守り未来につなげる地域活性化をふまえて活動を行っている。

「世界の料理レシピ・ミュージアム」館長。著書「しらべよう!世界の料理 全7巻」(ポプラ社)、
「日本の洋食~洋食から紐解く日本の歴史と文化」(ミネルヴァ書房)。

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