“工場直売”店で買う「ウエストのシュークリーム」

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“最強のシュークリーム”ココにアリ

“工場直売”店で買う「ウエストのシュークリーム」

下手をすれば、私は一日一個またはそれ以上のペースでシュークリームを食べている。なぜかというと、新宿区四谷の自宅から神奈川県茅ヶ崎市の勤務校までは車で長い時間をかけて通っているため、その車中でタンブラーのコーヒーを飲みながら、ローソンで買ったどら焼きやらエクレアやらシュークリームを食べ、「朝ご飯」に代えてしまっているのだ。

 

べつに不満はない……というか、このコーヒーとシュークリームを食べるひとときが、ときとして一日でもっとも幸福な時間だったりする。私はたまたまローソンの社長だった新浪剛史さんを昔からよく知っているので、氏から聞いた商品開発の苦労話などを思い出しつつ、この値段でこのクオリティのシュークリームがいただける僥倖をしみじみと噛み締める。

 

このようなヘビーユーザーとして、では「最強のシュークリームは?」という問いを受けたならば、さすがにローソンというわけにはいかぬ。まずは「ウエストのシュークリーム」である。シュークリームにうるさい人なら恐らく誰でも知っている、「王道中の王道」「鉄板」「キング・オブ・キング」というべき逸品だ。

ずしりと重い、その感覚こそ喜び

“工場直売”店で買う「ウエストのシュークリーム」

しかし、このシュークリームがウエスト「工場直売店」で買えるという事実は、それほど知られていないのではあるまいか。私はウエスト国立工場直売店の存在は20年前も前から知っていたが、それはべつに情報通だからではなく、単に私の実家が国立だったためである。両親はお土産やお客様のおもてなし用として、しょっちゅうシュークリームを買っていた。

 

だいぶ前、私がちょっとしたアクシデントで入院したときも、ウエストのシュークリームを土産に持ってきてくれ、私は涙が出るほど嬉しかった。そして親がまだ病室にいる間に、友人が見舞いに来てくれた。

 

「あら、○○さん、せっかくだから、シュークリームおひとつ、いかが?」

 

母の勧めに従い、彼は大きなシュークリームを抱え、無造作に(……と、私には見えた)食べ始めた。私はせっかく見舞いに来てくれた彼を呪った。

 

「オレのシュークリーム、あと1個しか残ってないじゃないかっ(怒)」

 

彼が帰った後、誰も居ない病室でシュークリームを手にした。ずしり、と重かった。嗚呼、この重さ。この重さこそ「娑婆」の感覚、喜びと他なるまい。

 

最近ローソンは「クリームたっぷりシュークリーム」を開発し、大いに喜んだものであるが、ウエストとは当然ヘビー級とライト級の違いがある。ウエストのクリームは暴力的なまでに重い。重いけれども後口はあくまでも爽やかである。

 

私はここ二年ほど、あらためてアナログレコードの魅力にはまっているが、それは「音の重さ」ゆえである。音のいわゆる解像度やら定位やらSN比やらは、近頃のハイレゾに敵うべくもないが、録音したてのマスターテープからカッティングしたレコード(いわゆるオリジナル盤)の音は、再発盤や後発盤のレコード、あるいはCDとくらべて、どういうわけか重く、濃く、生々しい。前回に引き続き、大好きなポール・チェンバースのレコードで言えば、「BASS ON TOP」オリジナル盤のA面1曲目「YESTERDAYS」のベースなど、工場直営店で買ったウエストのシュークリームとしか例えようのない重さで私を圧倒する。

 

まあ、工場直売ということでどれくらい味が変わるのかと言えば、そこは「気のせい」という部分も少なからずあると思う。しかし「味」も「音」も、そもそも「気のせい」によってその感動が劇的に変わるものではないか。工場直売とか、オリジナル盤とか言えば、魅力は何倍増しにもなってしまう。

 

ともあれ、20年近くも前のエピソードの記憶が今なお生々しいほど、ウエストのシュークリームの「重さ」は怪しく私をそそる。大した物である。

※掲載情報は 2015/07/26 時点のものとなります。

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キュレーター情報

横川潤

エッセイスト 文教大学 准教授

横川潤

飲食チェーンを営む家に生まれ(正確には当時、乾物屋でしたが)、業界の表と裏を見て育ちました。バブル期の6年はおもにNYで暮らし、あらためて飲食の面白さに目覚めました。1994年に帰国して以来、いわゆるグルメ評論を続けてきましたが、平知盛(「見るべきほどのものは見つ)にならっていえば、食べるべきほどのものは食べたかなあ…とも思うこの頃です。今は文教大学国際学部国際観光学科で、食と観光、マーケティングを教えています。学生目線で企業とコラボ商品を開発したりして、けっこう面白いです。どうしても「食」は仕事になってしまうので、「趣味」はアナログレコード鑑賞です。いちおう主著は 「レストランで覗いた ニューヨーク万華鏡(柴田書店)」「美味しくって、ブラボーッ!(新潮社)」「アメリカかぶれの日本コンビニグルメ論(講談社)」「東京イタリアン誘惑50店(講談社)」「〈錯覚〉の外食産業(商業社)」「神話と象徴のマーケティングーー顕示的商品としてのレコード(創成社)」あたりです。ぴあの「東京最高のレストラン」という座談会スタイルのガイド本は、創刊から関わって今年で15年目を迎えます。こちらもどうぞよろしく。

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